小説

『そうよ相応』番匠美玖(『人魚姫』)

「レイネス、いい加減になさい! 貴女もう二十歳になるのよ。そんな妄想に浸ってないでさっさと結婚なさい!」
 ガンガンと耳に響く声で怒鳴ってきた母様に、あたしはその場で身をひるがえした。
「いやよ。あたしも姫様みたいに人間と結婚するの」
 自慢のつやつやと輝く紫のうろこを、海底に微かに差し込んでくる日の光に晒して母様から離れる。
 人魚の楽園の姫様が地上の国の人間と結婚したのはあたしが十歳の時のことだった。姫様は歌がとても上手で、深紅の髪が色白なお顔をより際立たせていた。
 そんな可愛い姫様みたいになりたいといつも思っていた。あたしなんて、歌は下手だし、周りから浮くほどの容姿を持っているわけでも、『姫』という位があるわけでもない。
 だけど、姫様はお嫁に行くときに「あの人はね、君が人魚だから好きになったんじゃないって、言ってくれたのよ」と話してくれた。
 その頃王宮に侍女として仕えていた母と仲の良かった姫様は、あたしのことを妹のように可愛がってくれていたんだ。
 その言葉はあたしに自信を持たせてくれた。
 成長するにつれてだんだん綺麗になっていった紫のうろこに負けないくらい、あたし自身もそれなりに可愛くなった。
 姫様のお言葉通りなら、きっとこんなあたしでも愛してくれる人間がいるはず。人魚にだってそんな男はいるのかもしれないけれど、あたしは地上の国で生活してみたいんだ。
 姫様のおかげで、それまで仲の悪かった地上の国と人魚の楽園は仲良くなった。それでもまだ人間と人魚が結婚することは一般化していない。
 お母様が反対なさるのはわかるけれど、あたしの結婚する人はあたしが決める。
 もやもやと考え事をしながら部屋へ帰る。
 さっきまでの母様とのやり取りを思い出すと、何にも集中できなかった。もう寝てしまえ、と海藻の間に入る。

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