小説

『そうよ相応』番匠美玖(『人魚姫』)

「どうかした? レイネス」
 顔をひきつらせて硬直しているあたしに、王子様がお声をかけてくださる。なんでもありません、とほほ笑むと、王子様はまたお食事を再開する。
 一品一品運ばれてくる料理は、きっとおいしいものなのだろうけれど、人魚は食事をしないから味覚が無いのだろうか。まったく味がしない。
 まぁ、それは朝食のときも昼食のときもそうだったから、慣れたといえば慣れたけれど。
 一日中、与えられた部屋で何もせずにいたあたしのもとには、朝食と昼食が運ばれていた。
 晩餐は共に、という王子様のご好意により、あたしは今、例の重たいドレスを着せられて、王子様とお食事中。
 一回の食事にこんなにスプーンやフォークが必要なのかな。なんだか無駄にめんどうなことが多い気がする。
 しかも今日は髪を縛られていて、早くとりたくて仕方がない。  
 こんなはずじゃなかったんだけどな、人間界。
 心の中で呟きながら、王子様とのお食事をなんとかこなした。

 次の日、王子様に宮殿の外へ出る許可を求めると、一緒に行く、と言われた。
 二人で馬車に乗りながら〝宮殿の果てしなく広い庭〟を散策する。遠くには高い塀が見える。
この、閉塞感。
 海にいれば、どこまでもなんの障害物もなくて自由に泳いでいけるのにな。
 それに、あたしが外に出たい、といったのは、街に出てみたいって意味だったのに。
 それに、手入れされている庭は綺麗なものだったけれど、なんせ綺麗に手入れされすぎていて、本物のお花なのに作り物に見えてしまう。
「レイネス、今日の晩は宮殿の裏にある海岸に出てみないか?月が綺麗に見えるんだ」
 嬉しそうに語る王子様に、あたしも精一杯嬉しそうに、楽しみです、と返した。

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