小説

『そうよ相応』番匠美玖(『人魚姫』)

 うつむいていた顔を少し上げて王子様を見ると、あたしが立っている床より一段高いところにある椅子から、王子様があたしをじっと見ていた。
 歳は……そんなにあたしと変わらない、かな。
「そうか。ならば体が本調子に戻るまで、ここで好きなだけ休んでいくといい。その時になったら、誰かに君を、君の国まで送らせるよ」
 王子様のお顔が微かに赤いのは、見間違いじゃないはず。
「ありがとうございます。ここまでよくして頂いて、一体どう恩返しすればよいのか……」
 それじゃあ、お礼に君と結婚させてくれないか。
「いやいや、礼には及ばないよ。俺は当然のことをしたまでだ」
 あ、やっぱりそんなこと言うはずないか。
 では、と王子様に会釈して、使用人に案内してもらいながらあの無機質な部屋に戻る。
 出だしとしては、まぁいい感じじゃないかな。

 
「当分、ここが貴女のお部屋となります。それでは、失礼いたします」
 一人になった部屋で、あたしはまた服を床に脱ぎすてた。
 海のなかでは服なんて着ていなかったから、重たくて仕方がない。
 こんなのを毎日着ているなんて、人間も大変ね。
 窓枠に腕をおいて頬杖をつく。
 宮殿の外に出て人間の世界を散策してみたいな。
 王子様は許してくれるだろうか。
 いろんなことを考えていたら、睡魔に襲われてベッドへ倒れこんだ。

 
 なによこれ。人間の食事ってこんなにめんどくさいものなの? 大体、人魚が魚食べたら共食いじゃない。

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