小説

『Bros.』村越呂美(『偸盗』芥川龍之介)

 腹の大きな女、安西あみは、ウィステリア・キャッスルのホステスだが、妊娠して今は休みに入っている。取り立てて美人ではないし、スタイルも悪い。その上ちょっと頭が鈍いので、どこの店もクビになり、後はもう風俗に沈むだけ、というところを、どういうわけか、あみは沙希に気に入られた。
「あんまり使えない娘なんだけど、とにかく性格はめちゃくちゃ良いから使ってやってよ」
 沙希はそう言って、真理子にあみを雇わせたのだ。真理子は沙希には逆らえないようで、渋々あみの面倒を見ることになった。
 それが半年前のことだから、あみが妊娠したのは真理子の店に来てすぐ、ということになる。ところがあみは、決してお腹の子の父親が誰かを明かそうとしない。
 修一が、好きなものを頼めと言うと、あみは焼き肉定食とピラフを頼んだ。
「二人分だから」あみはそう言って、運ばれてきた料理をおいしそうに食べた。
「病院、どうだった?」
「うん、順調」
「金は大丈夫なのか?」
「うん、貯金もあるし、こうやって修さんが助けてくれるから、大丈夫」
「そうか」
「修さんも、早く沙希姉さんと一緒になれるといいね」
 あみの無邪気な言葉が、修一の胸に刺さった。
 沙希と一緒になる。そんなことが本当にありえるのだろうか。

 お腹が大きくなって、仕事を休んでいるあみを、修一は何かと気に掛けてくれる。無愛想だが思いやりのあり修一をあみは兄のように慕っていた。修一と会った後の、心が温かくなる幸福感に冷や水をかけたのは、あみの住む安アパートの前に立つ男の姿だった。
「おお、遅かったじゃないか」
 下卑た笑顔であみを待っていたのは、藤城誠だ。あみは怯えた表情になり、アパートの外階段を急ぎ足で上がった。藤島はその後をにやにやしながら、ついていく。
「もう来ないでって、お願いしたじゃないですか」
「まあまあ、そういう話は部屋の中でしようや」

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