小説

『夢泥棒』伊藤円(『夢占』『舌切り雀』『浦島太郎』『かちかち山』『雷のさずけもの』『はなさかじいさん』等)

「そういえば、昔、小学生くらいの時、同級生の万引きを阻止した事があったな」
「それだ!」
 パチン、と久留米は指を弾いた。
「解決。深層心理だ。実は心に深く残ってたんだよ、それ。ドリドリにはつきものだろ……でも、橋爪にそんな勇敢さがあったなんて意外だ」
「失礼な。俺は超のつく程の真面目クンだぞ。お前みたいに安易にドリドリ中毒になるような男じゃない」
「はは、そりゃ言い返せねぇけどさ、この前『初恋の人と再開する夢』でお楽しみしてたのは誰だよ」
「それを言うならお前だって『ハーレムになる夢』はどうした。ばらすぞ中村ちゃんに」
「やめろ。それだけはやめろ。いいものやるから」
 そう言うと久留米は自分の鞄を弄って、テーブルに一本の瓶を置いた。ドリドリと同じ、健康ドリンクと見紛うような小瓶。しかしラベルには、びっしり英字が書かれていた。でかでかと記された題字には、
「『アンチドリームシーカー』」。
「そう。最近ドリドリの副作用が酷くてさ、調べてたらあった。個人輸入したのなんて初めてだよ。気になる効能は、未知数!」
 久留米は興奮したふうに言った。が、橋爪は瓶をまじまじと見つめて、
「へえ。くれんだ」
 と一言だけ返した。久留米は恥ずかしそうに持ち上げた腕を下ろした。
「まあ、つーか毒味役だよ。海外のサプリとか効果強いって言うじゃん? ドリドリもたぶんそうだし、効きすぎちゃうから俺、一寸怖ぇんだよ」
「俺を人柱にすんなよ」
「いいじゃん。好きだろ、そういうの」
 こつん、こつん、人差し指で机を叩きながら、久留米は小狡そうな笑みを浮かべた。しかし橋爪もまた、
「まあ、その通りだよ」
 にやり、薄笑いを浮かべた。

 仕事に少し手間取って、会社を出る頃には十一時を過ぎていた。疲労に足取りは粘ついたようだったが、最寄り駅を降りると橋爪は、アパートとは反対の出口に進んで、最近この町にも漸く出店してくれたドリドリ屋に向かった。

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    「世にも奇妙な話」感がすきだった(7月期優秀賞受賞者:荻野奈々)