「一等は、アルヤン族スーホ!」
高らかな声に、スーホはひゅっと息を呑んだ。信じられない――呼ばれたのは、自分の名前だ。この伝統ある競技会の優勝者として読み上げられたのは、自分の名前なのだ。
競技会が始まって以来最年少の優勝者に、周囲がざわついている。それもそうだろう、草原で生きる騎馬の部族にとって、馬を繰る技を認められることは最高の名誉だ。そしてその栄冠を手にしたのが、弱冠十五歳の少年なのだから。
ざわめきから称賛へと変わり始めた声に押され、スーホはよろけるようにして前に進み出た。右手に握った手綱を引き寄せ、熱くなった顔を愛馬の鼻面に押し付ける。賢い牝馬は優しげな表情を浮かべ、年若い主を祝福するかのように低く嘶いた。それでスーホはやっと、足の裏の固い地面や周囲の歓声、今にも喉から溢れんばかりの喜びが、現実なのだと実感できた。
興奮のあまり頭はぼうっとしていたが、体は自動的にしきたり通りの動きをなぞる。スーホは膝を折り、頭を垂れじっと待った。そして低い視界に逞しい馬脚がぬっと現れた時、スーホの心臓は一際高鳴った。競技会の終幕では王が優勝者に褒美を与え、馬上から言葉を掛ける習わしになっている。全ての部族の頂点に立つ草原の帝王を実際に見るのは初めてだった。スーホは唾を飲み込み、ゆっくりと頭を上げた。
まず目に入るのは、金銀の馬具で飾られ、隆々とした筋肉を誇る見事な青毛の馬。両脇に控え、馬の口縄を取る家来。そして青毛の背に跨っている――王の姿。
金糸銀糸で縫い取られた上着に飾り帽子を身に着け、名前も知らない数々の宝石で飾られた豪奢な衣装に埋もれるようにして、青白い顔の少年がスーホを見つめていた。薄い唇はきつく引き締められ、虚ろな瞳は棒で突いて開けた穴のように暗い。重たげな袖口から覗く痩せた手は、所在無さげに手綱の上に置かれている。馬と共に生きる部族の者らしからぬ、色白で薄い造りの両手。
噂は本当だったのか。スーホは礼儀も忘れ、王をじっと見つめてしまう。
今の王は、先王が町の娼妓に産ませた唯一人のご落胤。されど娼館育ちなれば馬を繰る技をまるで知らず、鞍に腰掛け手綱を握るが精一杯とか――。
不意に少年王が目を細め、スーホを睨んだ。その視線の矢のような鋭さにスーホはたじろいだ。
「アルヤン族スーホ、そなたの技は見事であった」
少年王は唐突に口を開いた。声色は若者のそれであるのに、まるで老人のような語り口だった。それでいて、スーホを見下ろす目は爛々と燃えている。