小説

『小豆橋』原哲結(『妖怪 小豆洗い』)

“男”というより老けている男と、“女”というより老けている女が、並んで橋の上まで歩んで来る。
橋の上まで来ると、川の流れに目を落とす。
川の流れを追って、視線を先へ先へと走らせる。
川が地平線の彼方へ消えた時、周りの風景に、視線を巡らす。
山、木、草、道、家、人、車 ‥ 。
ふたりは、ほぼ同時に、お互いを見つめ合う。
しばらく見つめて、お互い微笑んだ後、再び、風景に視線を戻す。

ふたりの服を髪を、風が揺らす。
風は山から麓へ、川の流れに沿って、吹き進む。
風は、川に沿って進み、小豆橋に到達して当たる。
橋のアーチをくぐり抜ける際、音を出す。

ヒューヒュー ヒューヒュー
ヒューヒュー ヒューヒュー

アーチを完全に通り抜ける際、ヘンな余韻を残す。

ヒューヒュー ‥ ショキショキ ‥
ヒューヒュー ‥ ショキショキ ‥

ふたりは、風の流れを追って、振り返る。
橋の上で、百八十度、身体の向きを変える。
川の流れの行く先 ‥ 下流を見つめる。
風の行く先 ‥ 人々の住む地域を見つめる。
風は、ふたりとみんなと、周りと世界と、今と未来を包み込む。

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