小説

『小豆橋』原哲結(『妖怪 小豆洗い』)

駆け落ちとかやったらまだええけど、心中とかやらかしたら、目も当てられん。
見かけるごとに、二人の様子が雰囲気が、悲壮になってる気がする。

なんとかしたらなあかんか ‥ 俺が ‥ 。
世話にもなってないし、恩恵も受けてないけど、知ってる人が悲惨になって行くのを、指を咥えて見てるだけなのは、なんか気イ悪い。

で、何ができる。
何ができるやろう?
俺の特技ってゆうたら、小豆を洗うことやな。
小豆洗うだけかー。
エンドレス小豆洗い、かー。
 ‥ ん、エンドレス ‥ 。

カチッ ‥ シュボッ

 ‥ !、その手があったか!
あったよあったよ、ありましたよ。
そして、その手をやったるわい。
いつ実行しよう?
今日のところは、戦略練って、作戦立てて、準備にいそしむことにしよう。
実際の起動は、明日からやな。

小豆をとぎながら、物思いにふける。脳内は、ゴーッと、急速回転。
思考を巡らし、検討に検討を重ねる。
 ‥ これでいくか ‥ 。

ショキショキ ショキショキ
ショキショキ ショキショキ

ショキショキ ショキショキ
ショキショキ ショキショキ
 ‥ ガバッ
ショキショキ ショキショキ
ショキショキ ショキショキ
 ‥ ガバッ

小豆をとぐと、桶をひっくり返して、小豆を川に落とし入れる。
小豆をとぐと、桶をひっくり返して、小豆を川に落とし入れる。

小豆がある程度溜まって、流れを堰き止めて来ると、水の通り道を開けてやり、水の流れを取り戻す。

これを何十回、何百回となく続けて、文字通り《小豆の橋》を、川に架けるつもり。
いっぺんに何十人が渡れる位、幅広の橋を架けるつもり。

俺、何百年も小豆洗ってんねん。
小豆といでたら、小豆が欠けたり、小豆の色が抜けたりするわな。
そうなったら、桶ひっくり返して、小豆捨てんねん。
そうしたらいつの間にか、桶の中に新しい小豆が入ってんねん。
そうやって、何百年間、小豆洗って来た。

で、昨日、思い付いてん。

『この桶、小豆尽きひんぞ。
 エンドレス小豆出し桶、か。
  ‥ ん、待てよ。
  ‥ いけるんちゃうか。
  ‥ いけるって。
  よし、いこう!』

てなわけで、本日から、小豆橋作成に取り掛かってる。
わりあい、順調ペース。
でも、ひっくり返す頻度が、いつもの何十倍やから、ちょっと腰が痛い。
歳やな~。
妖怪なのに、歳かよ!
すいません、ひとりツッコミしてみました。
なんやかんやで、小豆が溜まって来たので、踏み固める。

洗う→ひっくり返す→落とす→溜まる→水が流れるようにする→踏み固める、を根気よくしてたら、思っていた通りの大きさになって来た。
ほれほれ、右間と左間の者達よ、互いに行き来して、仲良くなれ。
で、二人の思いを、昇華させてやれ。

やっぱ、まずは子ども達やったな。
最初は、右間と左間で分かれて、バトルごっこみたいなことをしてた。
そのうち、ごちゃごちゃ混ざって連合軍になって、そこからまた二つに分かれて、バトルごっこをするようになった。
まあ、その方が、人員とか戦略とか戦術にバリエーションが出て、面白いわな。

大人が何度言っても注意しても、子どもは聞く耳持たんかった。
“大人の都合の物言い”で、子どもの楽しみは押さえられんやろ。

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