唐突に恋が終わった。
今度こそは、この恋こそは、と思っていたのに、一瞬にしてあっけなく終わった。
想い出がたくさん点在する日々を、見ること、過ごすことが辛かった。どこかへ逃げたかった。
どこでもいい、旅に出よう。
パソコンで日本地図を開き、マウスを東京の地点に置き、目をつぶって、マウスをぐるぐるとさせ、クリック。その場所を目指すことにした。
クリックした場所は「島根県」。なんでここで、縁結びで知られる出雲大社がある島根県なんだ。
といっても、決まったものは仕方ない。
特急サンライズ出雲で行くプランを探し、早速予約する。
会社には有休を申請し、近く、退社したい旨も匂わせた。
そうして、旅に出た。
東京駅。22時発出雲行き。個室の寝台は心地よい閉塞感。
静かな夜の時間は電車が線路を踏みしめる音だけが聴こえ、しんみりとするにはぴったりとなってしまった。
「はあ」
自分のついたため息の大きさにまた、心がへこむ。隙ができた途端、彼のことが頭を駆け巡る。
出発前に買い込んだ酎ハイの最後の1缶を飲み干し、所在なく窓に目を向ける。
外は真っ暗で時折、遮断機の光がよぎる程度だ。列車はどんどん西へと進み、建物も、街灯もまばらになっていく。時折見える家の明かりの中では、どんな人たちが、どんな暮らしをしているんだろう。その明かりが、孤独ではなく、幸福な温かさであることを願う。
ふと、車窓に映る自分の顔にぎょっとする。40歳を来年に控え、全力を傾ける仕事も、恋も、好きな人も、何もない。貯金だって、雀の涙ほどだ。昔、自分が思い描いていた30代とは全くかけ離れた今であり、今はそこからさらに何も見えない遠くへ向かっている。
眠れないと思っていたが、ベッドに横たわると、列車の揺れも相まって次第に眠りに落ちていった。
『がたん』
揺れで目が覚める。窓を眺めるとすでに外が明るくなっていた。通路に出て、車窓をぼーっと眺めていると、大きな橋が左手に見えてきた。
ネットで現在時刻とサンライズ出雲を調べると、どうやら先ほどの橋は『明石大橋』だったことが分かる。東京とは違う景色が、旅に出たことを実感させる。
午前9時58分、列車の終着駅『出雲市』に到着。街はすでに活気をはらんで動き始めていた。
縁結びを願いたい訳ではないが、まずは土地の神様に御挨拶をするため、出雲大社へ。大きな鳥居をくぐり、大社の中へと進む。境内には、女子同士の旅行客が目立ち、みんな真剣な面差しでお詣りをしている。一昨日失恋して、一人ですぐに出雲大社に来る女は少ないだろう。
お詣りを済ませてしまうと、特にやることもなかったので、宿泊地のある玉造温泉へ向かった。
玉造温泉街は多くの店・旅館・立ち寄り湯スポットがあり、さらに賑わっていた。
土産物屋だけではなく、八百屋・肉屋・魚屋と、地域に住む人たちに必要な店も揃っている。色々な商店を眺めていると、食欲がないと思っていたのに、お腹がぐぐうと鳴った。