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『リュック』小林旦地

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 出勤してロッカーにバックを入れて、隣のロッカーを見た。あの黒い鞄が入っていた。
「なんでだよ」今日は火曜日なんだから、シフトに入っていないはずなのに。ロッカーに貼ってある「伊藤」というシールを見て、忌々しく思ってしまう。
 Tシャツとジーパンを脱いで制服の青いポロシャツと紺色のズボンを履いた。休憩室のドアを開けて「おはようございます!今日もよろしくお願いします!」と元気よく笑顔で挨拶をした。手前にある洗い場にいた田中は、ばっちりとメイクできめて、でも無邪気な笑顔で「おはようございます」と返し、その一つ奥で揚げ物を担当していた飯塚は無精髭がよく似合う渋い声で「おはよー」と返した。どこにいるのかはわからないけど、斎藤さんのいかにもおばさんという感じのする高い声が「今日もよろしくお願いしまーす!」と言った。
 一番奥で貝を担当している伊藤さんの動きが一瞬止まった。そしてまたすぐにホタテの身を取る作業を再開した。たぶん僕には聞こえないだけで、ちゃんと「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」と言ったんだろう。
 元気よく言えよ。自分の仕事だけできればいいってもんじゃない。
 長靴をガポガポ鳴らしながら、貝担当のエリアの手前にある魚担当のエリアに歩いて行く。途中、揚げ物をしていた飯塚が
「今日、三十人の予約入っているらしいよ。絶対忙しいじゃん」と言って、いかにも嫌そうな顔をして話しかけてきた。
「まじ?三十人かよ。絶対またあの野球少年たちじゃん。勘弁してくれよー」僕も同じように嫌な顔をしてみせた。
 持ち場に到着して、冷蔵庫を開ける。三十人の予約が夜七時からということは、マグロ十袋と、サーモン五袋かなと計算して、解凍作業を始める。突然、背後から斎藤さんの甲高い声が飛んできた。
「小林君!サーモン五袋で足りるの?大丈夫?」
「大丈夫ですって。この前は五袋でも余りそうになったんですから。足りなくなりそうだったらまたすぐに解凍しますから、大丈夫ですよ。」鬱陶しいなあ。
 僕がこの回転ずし店でバイトを始めて二年が経つ。大学一年生の梅雨ごろに始めて、今は大学三年生の梅雨。毎日雨ばかりだ。仕事の覚えは良い方じゃないけど、週三で二年間も働いていれば、そこそこ出来る人になれものだ。大学生や専門学生が多いこの職場は、バイトのメンバーの入れ替わりが早いから、二年間勤めている僕はもう頼れる古株的な存在だと自負している。
 店長と、もう一人の社員の近藤さん、それからベテランパートおばさんの斎藤さん以外は、みんな二十代で、フリーターもいるけど、ほとんどが学生だ。気の合う若者同士、休憩中にはしゃいだり、飲み会を開いたり、ディズニーランドに行ったりして楽しくやっていた。
 でも、状況が変わってしまった。今も楽しくやっているけど、前ほど無邪気には楽しめない。もちろん、伊藤さんのせいだ。
 別に伊藤さんが悪いことをしているわけではない。むしろ良い人だと思う。半年前、初めて顔を合わせた時は、感じの良い人だなと思った。伊藤さんが働き始めてからもしばらくはそう思っていた。

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