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『真夏のお客様』藤井あやめ

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 暑い暑い日本の夏。
 都会の避暑地の一つに、喫茶店という選択肢がある。
 透明のガラスで遮られた室内は、灼熱の外気から我々を守るように冷えた空気が循環している。白シャツに黒いエプロンをした僕は、注文通りバニラアイスが多めのメロンソーダを窓際のテーブル席に運んだ。
 気温37℃。じっとりとした湿気が肌に張り付く。無風の状態が五日ほど続き、酸素も苦しそうに地上に留まる。ひと度テレビを付ければ、命を守るようアナウンサーが毎日しきりに注意を促している。
 こんな日は外出なんてしない方がいい。店員の僕が言うのも何だが、この喫茶店は駅から遠いし、席数も多くない。もし満席だった場合を考えれば、駅ナカのカフェやファミレスをお勧めする。まぁ、満席になる事など滅多にないのだが…。

 今日は珍しく4組の客が席を埋めていた。漫才の打ち合わせだろうか、決め手の「なんでやねん」をいつ言うかで揉めている男性二名。体型の異なる二人はそれだけでキャラがたっているように思える。テーブルには赤ペンで何度も修正されたネタ帳が大の字で寝そべっていた。奥の席にはお互いの健康状態を報告しあうマダム2名。目眩の話から今はぎっくり腰について話題が移行している。カウンターには常連の田中さん。僕のじいちゃんと同じくらいの歳なのに、白髭がクールで格好いい。そして、窓際の席に座っているのは6才くらいの男の子とその父親らしき人だ。僕はメロンソーダを男の子の前に置き、カウンターの中に戻った。

 店内にいても、外の温度が目から伝わり体が熱くなる。微かに流れるクラシックのBGMに紛れた蝉の伸びる声に耳を澄ませる。この暑さ、やはり地球の異常事態を感じざるおえない。
 今日もきっと昨日と同じ、そう思っていた。しかし地球規模の危機とまではいかないが、この退屈なカフェにも異常事態はやって来るのだ。

 店内に響いたピリッとした声は、皆の注目を集める。
「どうして!?」
 僕もカップを拭く手を止め、声のするテーブルに目をやる。
 半分ほど残ったクリームソーダの前で男の子が半べそになっていた。
「どうしていつもパパはそんな風に言うの!」
 男の子はバタバタと足を揺らし、子供らしく憤慨している。
「だってなぁ、季節も違うしなぁ。無理だろう。」
 父親の眉をしかめてなだめるその表情に、どこか見覚えがあった。幼い頃、僕はプールに入りたいと駄々をこねた。 お雑煮をすすり、家族でお節料理を囲んでいた正月にだ。僕はなぜそんなことを言い出したのか分からないが、引き下がるタイミングを見失いひと悶着を起こした。男の子の父親はその時の親父の表情によく似ている。呆れたような、疲れたような。
 確かに正月に言い出した事は僕が悪かった。しかし頭から否定され、希望が一ミリもないそんな親父の表情に、幼い僕は子供ながらに傷付いた。

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