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『RED LINE(青空に舞う赤い糸)』新田塚道雄

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 世の中には見えない方が幸せなものがいくつかある。
 差し詰め、赤い糸などがそれにあたるだろう。特に、私のような独身女性にとって。
 男と女は目に見えない赤い糸で結ばれているという。しかし私は、あの転落事故でストレートに脳天を打って以来、すべての人の赤い糸が鮮明に見える能力を得てしまった。鮮明に見えるというのは例え話ではない。本当に物理的な実体として、糸が見えるのである。外を歩くときに私の目に映るおぞましい光景は、見た人にしか絶対に理解してもらえないと思う。
 試しに横浜駅前を歩いてみよう。それは八月の上旬、真夏最高潮の一日だった。街にはさんさんと降り注ぐ太陽の下、汗を拭いながら行き交う人々の波で溢れていた。どこまでも澄みきった夏の青空と、都会の白い建造物を背景にして、何千本もの真っ赤な糸がくんずほぐれつして乱舞している光景を何とか想像してみてほしい。真っ青な空。空中に舞い踊る何千本という、真赤にくねる糸。真夏の乾いた風が吹くと、ビュウッと一斉にその糸がたなびき、また元の位置にサッと戻ってくるその様子。その光景を見つめているうちに私は圧倒されて、気絶しそうになったものだ。こんな不気味なもの見たくない! そのくんずほぐれつの一個一個が男女のもつれを象徴しているのだ。あの、赤いくねり。スカイブルーに踊る人の縁。どこまでも爽やかな空気を背景に、それは人間の欲望を赤裸々に象徴するかのような、おぞましい対照を醸し出していた。ただ、中にはフワフワせずにビシッと太く一直線に伸びる太い、固そうな赤い糸もあった。ああ、あれは、たぶん純愛路線一筋の男女なのだろう。と信じていれば少しは気持ちが慰められる。
 朝、通勤時の満員電車の中も混線したような赤い糸で一杯、私には車内の吊り広告すらほとんど見えない。窓から外の光景を見てみると、隣の路線を走る列車はその天井を突き抜けて何百本もの赤い糸を空にたなびかせ凄まじい。不気味だ、不気味だ。
 会社の出張で東京と大阪を往復する日などは、新幹線の窓から車両がすれ違うときに物凄いスピードの大量の赤い糸の束を、それぞれの車両が空中に引きずっているのが見える。
 高速ですれ違うとき糸の束が絡まってまとめて引きちぎられたら、この車両に乗っていた人たちは全員、離婚したり失恋したり、人によっては、もっと酷い運命になるのだろうかと心配になり、生きた心地がしなかった。しかし幸いにも人同士の縁は強く出来ているようで新幹線の速度くらいでは、切れることは無いようだった……。
 日常的に仕事をしているときも、買い物に出かけたときも、目を空中に向けるとどこへ行っても赤い糸が何本も何本も宙に浮いていた。
 初期の衝撃が収まり、段々慣れてきてじっとその糸たちを観察できるようになると、中には枝分かれして二方向に進んでいる糸や、たまに冷たそうな青い糸も混じっていた。枝分かれしているのは二人の女性と出来ている男性の指につながっているらしく、一方、青い糸は情熱も無いまま結ばれている夫婦のようであった……。完全にこんがらがって解きほぐすのが無理っぽい糸もあった。その糸が結んでいる男女はさぞかし大変なことになっているのだろう。
 ある日、糸の生成過程が気になってきて、空中で舞い踊る赤い糸の群れのそのまた向こうに目を据えた。

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