「自分の土地って事さ……私有地の中なら免許無しで運転していいんだ」
「それ僕でも?」
「ああ問題なし……今度、工場の裏手で運転させてやる」
「やった」
「但し俺が一緒だぞ……後、皆には内緒な?」
了解とばかりに二人は横目で笑い合い、後部には気付かれない様に装った。
――これは僕の先生の思い出だ。
“昭和という良き時代の話”だと言っていた。
僕が聞いたのは父親との思い出ではなのだけど、聞くと大抵にこの正浩さんの話しになる。
父親がいない僕にとって素朴な質問だ。立派な先生の親とはどんなものかと。中学生の頃はよく聞いていた。
あと言うなら先生は学校の先生じゃない。通っている進学塾の先生だ。僕が心か先生と呼べるのはこの人しかいない。
「拓真、将来どうしようか考えてるか?」
塾から帰り際、先生に突然言われた。
「いいえ、まったく」と僕は元気に答えた。
「そりゃそうか。まだ高校二年だもんな」と先生は笑って言っていた。
「先生、突然どうしたんす? 急にそんなの聞くなんて」
「いや……まあ来年早々には推薦の対策を考えなァ。そのつもりなんだろ? 推薦考えてるだろ?」
「ああ……まぁ」
「奨学金は? 今の成績維持なら問題ないし」
「それも、まぁ」
「希望の大学、あるなら言っとけ。対策色々考えたる」
僕の質問、全く無視で話しを進める先生。でも笑ってしまうのは全部、僕の事を考えてくれているのが分かる話ばかり。聞き返した事はもういいかって感じだ。
「じゃあ、お母さんに宜しくなァ。この間のお土産の件な。拓真、あとテニスも頑張れ」
「はいはい」
続け様に話して先生は颯爽と行ってしまった。何だと思いながらも有り難いとも感じてしまう。本当に先生には感謝しかない。
家は母子家庭だ。父親は小さい頃に事故死した。不満はあっても不幸じゃなかった。
母さんが頑張ってくれた。だから好きな事だけやっていた。色んなスポーツを好きなだけ。今はテニス。
でも本当に好きな事だけだった。
だから中学一,二年頃の成績はヤバいを通り越し危険だった。
担任に呼び出され母さんとの三者面談。親身で話してはくれても担任の言葉はキツかった。話した後の母さんの落ち込み様も見ていてしんどくてしょうがなかった。