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『ホテル・ソスペーゾ』岡田麻央

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 美味しかった。昨日のホテルとはまた違った味わいだった。
 そして、値段も驚くほど安かった。
 ワンコインと、少し。
 理由を聞くと「魚を切って並べただけだ」とぶっきらぼうに返された。
 都会ならこの三倍は取られていたかもしれない。
 得したような、申し訳ないような……。
 喜ばしいのは間違いないのだが、正当な対価を払えているのかどうか不安だ。
 そんな気持ちなので他にも何か頼んだ方がいいのではないかと、メニューを睨んでいたのだが、続々と地元の人であろう客が入ってきたので、押し出されるように店を出るしかなかった。
 俺は「ごちそうさまでした。ありがとうございました」と伝える事しか出来なかったのだが、店長はにこやかに笑っていた。

 そして、夜。
 昼間とは打って変わって、近くのスーパーで買ってきたもので一人酒盛りをした。
 金を出来る限り使わないと決めた旅行ではいつもこうする。
 好きなものを買い、好きな酒を呑む。
 こういうのでいいのだ、と思う。
 一人、気楽にしているのがいいのだ、と。
 いつもは、それで良かった。
 けれど今は、心のどこかが浮足立っている。
 落ち着かない。
 その答えはわかりきっている。
 俺は酒を煽って覚悟を決めて、次の朝を迎えた。

「チェックアウトで」
「畏まりました。特に精算は御座いません」
「ありがとうございました。……あの、一つお願いしたい事があるのですが……」
「はい。どういったご用件でしょうか?」
「部屋を一つ、保留にしたいのですが」
「よろしいのですか?」
「はい」

 金額にしか興味がなかった俺のようなやつに、金額以上のものがあるのだという事を知って欲しいと思いまして。と言うのは、流石に言い過ぎだろう。そこまで赤裸々に告白してしまうのは恥ずかしい。
 最後くらいは、カッコつけてみたい。
 あれこれと理由を並べず、俺は提示された金額を支払った。余分に持ってきていた金が、これで無くなったわけだ。
 しかし、それは心地いい喪失だった。
 重荷が取れたような。
 ようやく相応の代価を払えた事に対する、すっきりとした感覚。

「保留して頂きまして、誠にありがとうございます」

 俺は洗礼を受けた敬虔な信徒のように厳粛に頷いて「それじゃあ」とその場を後にした。

「またのお越しをお待ちしております」

 いつになるかはわからないが、また来よう。今度は、きちんと予約をして。
 そう誓い、俺は帰路についた。

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