俺は通された部屋で暫しくつろぎ、ホテル内にあるレストランでチケットを使い、料理に舌鼓を打っている。
旬の野菜と魚を使った前菜。
魚介のスープと焼き立てのパン。
魚のバター焼き。
合間に、ビールを一杯と、地の酒を二杯。
デザートはフルーツのシャーベット。
魚の種類は多彩だったが、酔いもありよく覚えていない。
確かなのは、美味いという事。
みっともなくがっついてしまった。
パンも追加出来るというのでして貰った。
普段はそこまで食べる方ではないのだが、やはり、ただであるという事が俺の感覚を狂わせているらしい。
全く、一泊に付随する全てに金が掛からないというのだから驚きだ。
けれど、ただより高いものはない。と言うし、あまりの美味しさに不安になってしまい、ついつい「これって本当にお金払わなくていいんですよね?」と確認したくなるのだが……あるいはそれを隠す為に、やたらと口に食べ物を詰め込んでしまうのかもしれない……。
などと、幸福と不安の間で揺れていたところ、いつの間にかシェフらしき男性が隣にいた。
「先程のお魚は、全て地のものを使っているのです」
「へぇ。地産地消という事ですか」
「その通りです。近くに港がありまして。そこで取れたものが商店街に卸されるんですよ。もし明日時間がありましたら、立ち寄ってみてください。ここら辺には名所などもあまりないので、観光には物足りないかもしれませんが……食べ歩き目的なら楽しめると思いますよ」
「そうですか……それなら、行ってみようかなぁ」
元々これは噂を確かめる為の旅行である。
それが果たされた今、他に目的らしき目的は無い。
なので、たっぷりとくつろいだ翌日、俺はシェフの言葉に従って商店街へと赴いた。
そこは、お世辞にも活気があるとは言えない雰囲気だった。
しかしだからといって、寂れているというわけではない。
落ち着いている。
生活の場として、人が根付いている。
そういう静けさだ。
そんなところを歩いていると、すぐに魚屋が見付かった。
生簀に生きの良さそうな魚がいる。
しかし昨日食べたものがどれなのかはわからない。というか、そもそも一匹買ってどうするというのか。
俺には捌けない。