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『宝の街』高橋百合子

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 銀座は、宝の街だ。
 松屋銀座の、スタイリッシュで、無駄なく洗練された白く美しい箱型を見上げながら、一輝は首を傾げた。祖父の口癖だった、銀座は宝の街、という言葉に、一輝は違和感があった。  
 確かに、宝という意味では、有名な宝石店やブティックが並んでいるが、一輝の思い描く銀座は、高級で、整然とし、あらゆる欲望を秘かに内包する、東京のクールな一面を担っている土地であり、まさに鋭く光る銀色という感じで、宝という響きが持つ、下町のような人間的な温かさや明るく豊満なイメージは、真逆に位置していた。祖父が亡くなってしばらく経った今でも、この違和感は消えない。だが、正解を教えてくれる本人がいなくなってしまった今、もやもやとしたものだけが残った。ちょうど、まさに今、その意味をどうしても知りたいというのに。三連休の中日、一輝は、祖父の痕跡を探すように一人、銀座の街をゆっくり歩き始めた。

 銀座には画廊が多い。
 まだ年端も行かない頃、袴を履き、お気に入りのパナマ帽を頭に乗せた祖父に手を引かれながら、一日に何軒も、画廊を回ったことを思い出す。祖父は、自分では描かないのに、絵が好きだった。銀座の端に、小さな蕎麦屋を構えていた祖父は、せっかくの休みなら少し遠出すればいいものを、引っ込み思案で大人しかった一輝を、月に何度も連れ出しては、二人で銀座の街を歩いた。小さな子供と二人で、何が楽しかったのだろうかと、今になって一輝は思う。うっすらと記憶にある、画廊の入った小さなビルが目に入った。その、かつて綺麗な花の絵が並んでいた画廊の、地下に続く赤茶色の階段の一番上に、一人の男性がしゃがみ込んでいた。一輝に背を向ける形で、赤い大きな登山リュックの中を一心不乱にかき回している。何か探し物だろうか。肌寒くなってきたというのに、半袖の、肌に吸い付くようなシャツを着ている。秋晴れの高い日の光が、男性の少しウェーブがかった肩まで伸びる金髪に降り注ぎ、頭を動かすたびに、キラキラと輝いた。一輝は、歩き出そうと思えば思うほど、その金色の髪から目が離せなかった。男性が、いきなり振り向いた。涙の溜まった大きな青い瞳が、一輝の焦げ茶色の瞳に映る。
「大丈夫ですか?」
 思わず声が出た。
「大切なもの、落としましタ」
「えっ、あ、日本語」
「はい、少ししゃべれまス」
 金髪の若い外国人は、マティスと名乗り、勢いよく立ち上がると、一輝の両手をがっしり掴んで、助けてくださイ、と叫んだ。

 the square hotel。
 黒を基調とした外壁に、ガラス張りの先がすぐカフェ&バーになっている隠れ家のようなホテルの前に、一輝は立っていた。一輝が、入り口の黒い扉を、恐る恐る押した時、すでに日は陰って、夕闇が濃くなっていた。入るとすぐ、艶やかなアイボリーのバーカウンターが目に飛び込み、それを際立たせるような黒いシックなバーチェアに座ったマティスが、一輝に満面の笑みを向けながら手を振っていた。
「今日は、本当に、ありがとうございましタ」
 一輝が座るか座らないかのうちに、マティスはまた、一輝の両手を強く握って上下にぶんぶんと振った。
「いえ、そんな。見つかってよかったです。会社から急な呼び出しがあって、少し遅くなってしまいました。申し訳ない」
「そんな、気にしないデ。何を、飲みますカ?」
「そしたら、えーと、マティスさんと同じので」

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