四連休真っ只中だ。旅行くらいするさ。だけど、僕みたいに一人で行楽地に来ている人なんて他にはいないのではないだろうか。
それは日曜日の昼下がり、ファーストフード店でのこと。
「なぁ太一、良かったら再来月の四連休に旅行どうよ? 二泊三日」
「旅行って、誰と?」
「誰とって、俺と」
涼しげな顔した和也は、ズズズズーと音を立てて残り僅かとなったジンジャーエールをストローで飲み干した。
「男二人で旅行?」
「そう、ダメ? 前年度の営業成績が良くて、会社からペアの旅行券をもらったんだけど行く相手いないからさ。どうせ暇だろ?」
和也がポテトの塩と油の付いた人差し指を僕に向ける。
「まぁ、暇と言えば暇だけど」
「よし、じゃあ決まりな!」って調子に乗って指まで鳴らしたくせに……ドタキャンだなんて。
このところ、仕事や恋愛全てがうまくいかない。僕の今後はどうなっていくのだろうかと年齢的に色々と考える。せっかくだから気分転換に一人で来てみたけど、やっぱり男の一人旅ってのは寂しい。
目の前にはその寂しさを煽るような黒こげのパン、そしてサラダとホットコーヒー。ちょうど斜め前方には、立花璃子の対面に座る男性の姿が見える。時折、スマホを見せながら談笑しているのは観光の打ち合わせだろう。まさか、こんなところで子どもの頃の淡い失恋を噛み締めるとは夢にも思わなかった。
「私、健斗君のことが好きなの。スポーツマンだし。大和は運動神経悪いもん」
今から約二十五年も前のこと。ありったけの勇気を振り絞り、想いを伝えた返事がそれだった。
闇に葬り去られていた望まぬ記憶が鮮明に蘇る。僕は頭を振ってそれを掻き消そうとする。が、消えない……
「よろしければ、どうぞ」
その声のトーンだけで爽やかな紳士を想像させた。そっと伸びる手には綺麗な焼き色のついたロールパンが二つ乗ったお皿。
「あ、ありがとうございます」
髪をビシッとオールバックに整えたウェイターは、男の僕から見ても清潔感のある好青年だった。
僕がパンを焦がしたことに気付いていたのだろうか、これぞ素晴らしいホスピタリティである。どんよりしていた僕の気持ちは少し晴れた。我ながら単純な性格である。
小さな子連れの家族に老夫婦、大学生と思しき女子のグループに外国人カップル。そして初恋相手とそのパートナー。こうして一日のスタートをいろんな人たちに囲まれて迎えるのはある意味で面白い。様々な場所からやって来た多様な人生を送る人たちが、一つの場所で同じ朝を迎えるのだ。皆、朝のエネルギーを蓄えて、これからそれぞれ思い思いの場所へ出かけて行くことだろう。
よし、僕もせっかくだから旅を楽しもう。いつもより格段に美味しく感じるロールパンにお腹も心も満たされ、僕はホテルを出発した。