『花瓶少女』
渕上みさと
(『鉢かつぎ姫』)
病気の母を想い母の好きな花瓶をかぶり続ける少女。母親が亡くなり、転校してしまったその少女にもう一度会おうと約束した少年。年月を経て、少年だった男は花瓶女の噂を聞く。
『天井ウラウラウラ』
松明
(『屋根裏の散歩者』)
アパートの三階に住む三郎は、管理人に貰った殺虫スプレーの液体を天井裏から垂らして近所迷惑な隣人を殺そうとするが、四階には床下の巨大な芋虫を殺そうとする明子がいた。
『翳りゆく部屋』
末永政和
(『地獄変』芥川龍之介)
妻をなくした画家は、その安らかな死顔をせめてカンヴァスにとどめようと絵筆を握った。いつしか彼は時間がたつのも忘れ、夢中で絵筆を動かしていた。悲しみに浸るでもなく、妻との思い出を愛おしむでもなく、ただただ亡き妻の顔が死の色を帯びて行く様に心を奪われていたのである。
『はじめのモモ』
みしまる湟耳
(『桃太郎』)
桃から生まれた桃肌の赤ちゃん。良い匂いに人も魔物も群がってくる。モモを食べられたくないおじいとおばあはモモの汗からアメをつくったが、もっと欲しがるモノたちに追われ、モモは鬼ヶ島へ誘い込まれる。
『砂塵のまどろみ』
化野生姜
(『眠い町』『砂男』)
念願だった図書館の司書をやめさせられた「私」。家には痴呆の祖母と、自分のことを理解してくれない母がいる。毎日のように続く頭痛と、幾度もフラッシュバックする仕事のトラウマに悩まされながら、いつしか砂漠の幻覚を見るようになっていく…。
『囚われのセリヌンティウス』
石川哲也
(『走れメロス』)
メロスの身代わりとなり、獄につながれたセリヌンティウス。固い友情を信じる彼は、ディオニス王の心無い言葉に耳を貸すことはなかった。しかし約束の刻限が近づいてもメロスは姿を現さない。セリヌンティウスの心に、初めて友を疑う気持ちが芽生えた。
『祈り』
多田正太郎
(昔話『雨乞い』など)
祈祷師だろか?まさか、こんなところに、な。いや、こんな時代に、かな。そんなこと言われたらよ。祈祷師だって困るだろうさ、きっとよ。随分、肩もつんだだなぁ。肩もつ?ああ、そうだろうさ、呼んだ手前だろ。