『(有)桃太郎出版社』
吉田大介
(『桃太郎』)
赤字出版社を経営する桃田は、猿橋、犬山という従業員をかかえていたが経営は悪化。苗字にキジの付く人間を捜して「桃太郎」を編成することで業績を好転させる奇策を企てる。意外な所でキジを見つけ、必死に口説く桃田ら。成功をつかめなくとも、人生を何度もやり直していく人間ドラマ。
『宇良の亀』
木江恭
(『浦島太郎』)
宇良(うら)は酷暑の中、姿を消してしまった亀を探していた。声を掛けてきた怪しげな老人に連れられて行った先は雑居ビルの奇妙な一室。乙海姫子と名乗る女に出迎えられた宇良は、彼女こそ自分の亀を攫った犯人だと確信し、亀を取り戻すべく姫子と対決する。
『粗忽なふたり』
室市雅則
(古典落語『粗忽長屋』)
春から始めた就職活動が終わらず夏を迎えた大学生の『俺』は、今日も面接で失敗。出口の見えぬ日々と苛烈な暑さに頭が溶けそうになって帰る途中、野次馬たちが行き倒れの死体を囲んでいる所に出くわす。その死体が自分と同じ顔をしていたので、双子の弟と断定し、彼の家に本人を迎えに行く・・・
『TOGA-OI』
柏原克行
(『狼と羊飼い』)
小学六年生の真は江戸より代々続く科負い比丘尼を生業とする家に生まれ育った。ある日、尊敬する先代・瀧の引退に伴い唐突にその事実を突きつけられた真は戸惑いつつもその運命を受け入れ七代目貂妙陰として自らのやんごとなきクラスメイトの名誉を護る為、人知れず立ち上がるのであった。
『カンダタの憂鬱』
poetaq
(『蜘蛛の糸』芥川龍之介)
原作に反して引き上げられたカンダタはお釈迦様に「このままでは教科書に名が残らない」と落下を迫ります。が、なかなか聞き入れられず、遂にカンダタは仏を地獄に落とします。極楽の住人になった彼は、しかし退屈でならず、また地獄で充実して生きている仏たちが羨ましく、自ら池に飛び込むのでした。
『ロータス・イーター』
末永政和
(『蟻とキリギリス』)
巣穴近くで息絶えたキリギリスの亡骸を、蟻は仲間に気づかれぬ場所まで運び去ろうとした。迷いなく仲間のために尽くす自分と、与えられた短い時間を精一杯謳歌したキリギリスと、どちらの生き方が正しいのか。裏切りがばれて幽閉された蟻は、蓮の実を食べて安逸をむさぼる種族のことを思い出していた。
『光にゆく羽音』
柿沼雅美
(『冬の蠅』梶井基次郎)
何かをしようとしても他のことがでてくるとすぐに忘れてしまう。毎日毎日そうだった。僕が何か素直なことを言い出すと、皆が冷ややかな目をする。机に隠した蠅だけが僕の心を優しくしてくれた。