『狼はいない』
光浦こう
(『狼少年』)
ある日僕は流れ流れて、昔、狼少年が住んでいたと伝えられる村へと辿り着く。
そこは嘘をついたら誰も信じてくれなくなるぞ。という狼少年の教訓を胸に、村人全員が嘘をつかない村であった。しかしそこに忍び寄る狼の影が…‥。僕は狼退治に向かう事にした……。
『いつか、そこに咲いていた花』
村越呂美
(『あさましきもの』太宰治)
イタリアン・レストランに取材で訪れた私が偶然出会った男 岸田。彼は多くの欠点にもかかわらず、女に好かれる人物だった。彼は妻の鏡子と結婚する時、酒をやめることを約束した。しかし、彼は妻との約束を破り、酒を飲んでしまう。妻に捨てられる覚悟をした岸田に妻が言った言葉とは……。
『恩返し』
池上夏紀
(『鶴の恩返し』)
連日の残業に疲れ切った男は、終電を逃した帰り道に白い光を目撃する。近付いてきた光は白いワンピースを着た少女へと姿を変える。男は謎多き美少女と、居酒屋、そしてホテルへ。シャワールームに入る時、少女は「扉を絶対開けないで」と恥ずかしそうに言う。理性と闘った男はついに扉を開けてしまう。
『怪鳥ヲ射ル事』
化野生姜
(『太平記/広有射怪鳥事』)
インターハイを決めた「私」は夏休みも弓道の練習に明け暮れていた。そして今日も長い射場の廊下を進み、矢を射る。そんな中、朱色と黄色の混じった妙な羽と五本もの鋭く尖ったかぎ爪を持つ奇妙な鳥が、「私」と的とのあいだに入るように舞い降りてきてこう言ったのだ、『いつまで』と…
『人形の夢』
あおきゆか
(『たれぞ知る』ギ・ド・モーパッサン)
Sは人と交わらず、家に閉じこもって人形の絵を描くことだけを生きがいにしていた。夢の中で、お気に入りの人形がほんものの少女になって現れるのを見たSは、その少女をモデルに絵を描いた。その絵ははじめて注目され、賞をとる。だが、ある夜人形が玄関から抜け出していくのを目にしてしまい……。
『人参』
谷ゆきこ
(『檸檬』梶井基次郎)
得体のしれない嫌なものに心をおさえつけられていた「私」はある日、明け方3時に目が覚めてしまい、その原因について考えをめぐらせる。それから一睡もできないまま朝になり、むしゃくしゃした気分で外に出た「私」は、人参の切れ端が道に落ちているのを見つける。誰かのゴミ袋から落ちたものらしい。
『青乃先生』
朝蔭あゆ
(『土神と狐』)
時子は、美しい女医である青乃先生に憧れている。しかし女学校の同級生である春子は体が弱く、いつも青乃先生に診て頂いていた。それを知った時子は穏やかならざる気持ちに苛まれ、心の奥で春子を呪うようになる。そしてある夏の日、春子が不帰の人となり、時子は己が罪を負ったことを悟ったのだった。
『赤ずきんと海の狼』
酒井華蓮
(『赤ずきん』)
赤ずきんは青が好きだった。青空、幸せの鳥、そしておばあちゃんに叩かれた所も、青くなれば治り始める。最近のお気に入りの青い花畑で出会った狼さんも、黒過ぎて青みがかっていた。それがとても綺麗で、おばあちゃんが食べられたと知った赤ずきんは狼に願った。「私も狼さんの青にして。」
『待つ』
野口武士
(『浦島太郎』)
両親とニューヨークに住む大学生のアコは、久しぶりの日本への里帰りの前にグアムで休暇を満喫していた。グアムの海岸で写真を撮っていると、ひょんな事から、年上の女性と知り合い、話をする事になる。女性はアコに、信じられないようなストーリーを語りだすのだった。