『風とやってきた娘』
宮重徹三
(『きつねの嫁入り』)
じじとばばは二人だけで農家をやっていた。ある日、庭の向こうの竹林から、妙と言う一人の娘がやってきた。妙は、じじ、ばばや村の子供たちと遊びたくて、よく来るようになった。夏祭りの夜、三人は神社に行き、舞台で演奏する三人の若者の演奏を聞いた。妙の目は横笛の若者に惹きつけられていた。
『ひとひらの恋』
和織
(『桜の森の満開の下』)
桜の時期によく人が死ぬから、その場所は「殺人アーチ」と呼ばれるようになった。僕と真岡雪だけが、そこを気味悪がらずに通っていた。ある日、彼女は僕と手をつなぎ、僕の想いは突然に果たされた。それは灰色の混じった時間だったけれど、そんな中にいても僕は彼女が好きだった。高校を卒業した年、満開の殺人アーチの下、雪は言った。「私知ってるの、今年、誰がここで死ぬのか」
『すなあく』
化野生姜
(『スナーク狩り 8章の苦悶』)
「あんた、『すなあく』食ってみねえか?」青い瞳を持つ男に誘われ「俺」は山あいにある廃れた集落へと向かう。しかしその場所には、地下に広がる大量の死体と異形の化け物が棲みついていた…。
『人魚とダンス』
戸田鳥
(『人魚姫』)
「僕」は、海で人魚を釣り上げる。人魚に刺さっていた銛を抜いたことで、人間に変身するための身元保証人にさせられる。舞踏会で王子と踊りたいという人魚の望みをささやかにでも叶えようとする僕。三日目、薬がきれた人魚は、自分の胸を貫いていた銛を僕に託して海へ戻る。
『瓶詰ノ世界』
北村灰色
(『瓶詰地獄』)
とある居酒屋の廃墟で発見された四本の大瓶。その瓶の中に納められた手記には、それぞれ奇妙な体験や光景が描かれていた。瓶の中で繰り広げられる地獄或いは天国絵図。それらは嘘か真か、夢か現か……。
『銀三匁』
石川哲也
(『かちかち山』)
小作人仲間から「たぬ吉」とよばれる佐吉は、娘の薬代を地主の老夫婦から借りようとした。しかし、地主の金を掠めていた新助に騙され、あろうことか、おばあさんを死なせてしまう。佐吉を恨むおじいさんは、彼を殺した者に財産を譲ると言い出す。金に目がくらんだ新助は、佐吉の住む山村に向かった。
『お園』
阿礼麻亜
(『葬られた秘密』)
菓子屋の喜兵衛の一人娘お園。ある日器量自慢のこの娘に縁談があり、嫁に行ったのも束の間、病を得てあっけなく他界。49日の前の晩、その娘が幽霊となって出てきて何かを訴えます。心残りがある模様。近所の寺の和尚がその訴えを聴きに行きます。さて、その心残りとは・・・
『がらがらぽんの日』
伊藤なむあひ
(『オズの魔法使い』)
すごい音だね、と僕が言うと、叔父はどこか得意げに、そうだろう、なにせ山の上だからね、と返してきた。実際に外からはほんとうにすごい音が聞こえていて、ががん、ばだん、ぐおおおお、ばばばばばばばば昔さ、叔父は準備をしながら、一度だけ飛んでいったことがあるんだよこの家、と続けた。え?