『笛吹き男のコーダ』
木江恭
(『ハーメルンの笛吹き男』)
碓氷(うすい)はある組織の依頼で、湯治場の葉芽留宿(はめるじゅく)に滞在している。飯屋で耳の聞こえない女児を助けた夜、ついに仕事の指令が下った。それは組織の裏切り者を消し、奪われた「商品」を取り戻すこと。碓氷は人を操る魔性の笛を携えて仕事に向かう。「商品」は、子どもたちだ。
『満員電車』
遠藤大輔
(『蜘蛛の糸』)
運勢占いが1位の日はいつも良い日になるはずだ。なのに今朝の通勤は人身事故のせいで電車が超混み合っている。もうこれ以上乗り込むことができないくらい満員なのに、これでもかと人が乗り込んでくる。身動きがとれずに積もり積もったイライラがピークに達し、ついに僕の中の糸が切れてしまう。
『No Face』
植木天洋
(『狢(むじな)』)
暇を持て余した高校生の「俺」はLINEで知り合った女の子と自撮りの交換をした。しかし、相手の顔の写真には眼も鼻も口も写っていなかった。しばらくして実際に会ってみることにすると、彼女は驚くほどの美少女。「俺」はすっかり浮かれた気分で彼女とのデートすることになったが……
『怪物さん』
大前粟生
(メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』)
土曜日の午後をいかがお過ごしでしょうか。北条院時子です。毎週ゲストの方に半生を語っていただく番組「人生は一期一会」。今週のゲストは怪物さんです。どんなお話が聞けるのでしょうか。とっても楽しみです。そして今日は、怪物さんに会いたいというあの方にも登場していただきます。
『手袋と赤ん坊』
ふくだぺろ
(『北米先住民の民話』)
ある女が赤ん坊を産んだが、あまりに小さくて、人に笑われるんじゃないかという不安にとりつかれ、手袋にいれて川に流した。不安ではない。赤ん坊が流れたのだ。赤ん坊は手袋とともに川を下る。手袋は赤ん坊に愛情を持っているが、一方でいつまでも守れるのではないことも知っていた。
『モンキーアンドシザーズ』
笠原祐樹
(『猿カニ合戦』)
その日は台風の影響でバー「モンキーアンドシザーズ」には客が一人もいなかった。マスターが店を閉めようとすると、びしょ濡れになった女が駆け込んできた。整った顔立ちの品の良さそうな女。店を閉め、二人が酒を酌み交わすと、ふと女は語り始めた。謎に満ちた誰も知らない昔話を。
『兎ろ兎ろ。(とろとろ)』
紅緒子
(『うさぎとかめ』)
あたしのツインテールは乙女の印籠だから、絶対に髪の毛を生涯切る気はない。おばあさんになっても赤いリップにツインテールをして猫と暮らすと決めているのだ。そう思えるのは亀と一緒のときだけ。亀はあたしの家来だから、あたしは王女様となってこの世のことわりを語って見せる。
『ザ・ガール・ネクスト・ドア』
中村吉郎
(『鶴の恩返し』)
アルバイトで生計を立てるミュージシャン志望のケンジ。ある日、電車で男にからまれていた女性を助ける。偶然、彼女はケンジの斜向かいの部屋に住むカリナという女性だった。翌日からケンジの部屋のポストに毎日現金1万円入りの封筒が届けられる。自分を詮索しないで欲しいとケンジに頼むカリナ。
『Dカンパニー』
サクラギコウ
(太宰治『グッド・バイ』)
逆玉の輿のチャンスをつかめそうな結城は、同時に付き合っていた他の4人と速やかに別れなければならないと考えた。彼は「Dカンパニー」に相談する。いわゆる「別れさせ屋」だ。結城は会社一押しのアヤという女とコンビを組むことになり、女性たちの元を順々に訪ねていくのだが……