『Modernカッサンドラ』
縹呉藍
(アポロドーシス著『ギリシア神話』)
現代に生まれてしまった予言者の能力を持つ少女。「今、予知予言の類は見世物で、信じられることは有り得ない」それでも予言し続ける自分に苦悩しつつも必死で護ってきた幸せがあった。しかし新たな家族が現れたとき、彼女の幸福は虚像と化し全てが壊れていく。全てを喪った少女が最後に視たものとは?
『終戦花見』
清水その字
(古典落語『長屋の花見』)
海から遠く離れた、長野県の野辺山高原。太平洋戦争末期、空襲から逃れてこの地で訓練をする海軍の部隊があった。終戦でやることをなくし、若き飛行兵は景気付けに、八月だというのに花見へ行こうと言い出す。気で気を養え、と。
『トウダイモトクラシー』
シトフキワイ
(『鶴の恩返し』)
次郎と妻が夫婦で営む下宿『白鶴荘』。経営が苦しく隠居を決意したとき、女子学生が訪れる。亡き両親が昔下宿生で、残り二ヶ月だけでもいいから自分も住みたいと強引に住み始める。すると下宿は活気づき、下宿依頼も殺到。次郎は昔を思い出し、隠居を撤回。実は彼女、一つだけ嘘をついていたのだった。
『千年に咲く花』
丹一
(落語『竹の水仙』『ねずみ』)
時は幕末。放浪の大工職人・源五郎は訳アリの宿屋に泊まったことにより、 越後の左甚五郎と謳われる石川雲蝶と彫刻勝負をするハメになる。酒呑みで頼りない源五郎を心配する娘が見守るなか奇想天外の勝負をするが、その大工の腕にはある秘密があった……
『第十一夜』
たぼく
(『夢十夜』夏目漱石)
十夜連続で奇妙な夢を見た吾輩は毎夜続く不気味な夢に辟易していた。安息を求めながら今日も眠りに堕ちていくと、またしても奇妙な夢を見た。そこではパン屋を営んでおり、イギリス仕込みのパン作りの腕と瀟洒な佇まいの店での生活を気に入ったが、ある日男が現れ無駄な時間を売ってくれという。
『桃太郎Take2』
散田三郎
(『桃太郎』)
「うれしいな。ぼく、桃太郎さんと同じ生まれ方をしたんだ」祖母は反応しない。「じゃあぼく、いつか鬼を退治に行くよ」祖母は反応しない。「そしてね、鬼を退治したら、お殿様から褒美を貰って、それをお祖母さんにあげるよ」祖母は反応しない。「それで、その、ぼくの入っていた桃はどうなったの」
『ネズミの相撲』
長月竜胆
(『ネズミの相撲』)
ある日、お爺さんはネズミが集まって相撲をしているのを見掛けた。自分の家のネズミが弱いのを見たお爺さんは、お婆さんと共に団子を作り、ネズミに与える。すると、他のネズミたちも集まってきて、団子の礼に小判を置いていくようになった。それを聞いた長者は真似をして金儲けを企む。
『開かずの座敷』
化野生姜
(『見るなの座敷』)
泰三爺さんが床につくと、家族は最後を看取るために彼のまわりに集まった。四世代の大家族。泰三はその最後に満足を感じながら部屋の中を見渡してある一点に目をとめた。「開かずの座敷」、「見るなの座敷」…。そう、その場所は昔からそう呼ばれていた…。
『真っ赤な歯車』
加納綾子
(『歯車』芥川龍之介)
僕はふらふらと田舎道を歩いていた。僕はいまどこを歩いているのだろう。この一時間、僕は、僕には珍しくほとんど何も考えずに歩いていた。いつも僕はいろいろのことを考えすぎて精神科から注意される人間だ。精神科医は、僕にもっとぼうっとしろというのだ。