『オリザに灯る火』
清水その字
(宮沢賢治『グスコーブドリの伝記』)
グスコーブドリが大勢の人々を救ってから、二十年。今や彼を知らぬ者はおらず、イーハトーブの町中で記念式典の準備が始まっていた。新聞記者の『私』と『先輩』も特集記事作成のため、生前のブドリを知る人々の元へ取材に向かった。
『白雪くん』
大前粟生
(『白雪姫』)
工事現場で働く七人の女たちはある日、ひとりの男の子が家の前で体育座りしているのを見つける。男の子は「白雪くん」というあだ名で、新しいお父さんとの生活に嫌気がさして家出してきたのだった。彼があまりに美しくて弱弱しいものだから、七人の女たちは彼と共同生活をはじめた。
『手長足長の子細を語りたること』
木江恭
(『妖怪・手長足長の伝承』『童謡かごめかごめ』『賢者の贈り物(O.ヘンリー)』)
「おれ」は、妖怪テナガアシナガについて語り始める。異様に脚の長い巨人アシナガは、望んだ分だけ伸びる手を持つテナガを背中に負っている。何故彼らの手脚は異様に長いのか。何故彼らは常に行動を共にするのか。その答えを示すのは、一組の男女が織り成す恋物語。
『桃産』
大前粟生
(『桃太郎』)
桃を妊娠したことを夫に告げると、他人事のように扱われている気がした。先生に障害を持つ桃のことを聞かされた私はやれることはなんでもしようと妊婦のためのエアロビクスに参加することにした。ジムの前で、5回目の桃を妊娠した浦島サキさんに声をかけられた。これは私が桃を産むまでの話。
『彷徨えるプリンス』
上田未来
(『白雪姫』『赤ずきん』『ヘンゼルとグレーテル』)
ある日、王子は自分がどの物語の主人公なのか、わからなくなってしまった。王子はこれを機に物語から出ていくことを思いつく。王子が森を歩いていくと、赤い頭巾を被った女の子に出会う。彼女にお祖母さんを見舞うように頼まれた王子は、バスケットを持ってお祖母さんの家に向かうのだった。
『エンマの戯』
谷聡一郎
(『地獄八景亡者戯』)
優秀で若い僧侶が谷に落ちて死んだ。しかしエンマ大王は、残った人の子らのため、世のためにも彼を生き返らせるべきなのでは、と感じた。そこで、偉大な賢者たちを呼び寄せて、死んだ僧侶を生き返らせるべきか否かの論議を始める。
『新説 不思議のお茶会殺人事件』
湯
(『不思議の国のアリス』)
おかしなおかしなお茶会で。日々繰り返されるティーパーティー。なんでもない日の今日だけど、白昼堂々殺人事件。その真実の一つや二つ、茶菓子と一緒に食べてしまえと、誰が言ったか彼が言った。やはりいつものイカレたお茶会。殺人事件なんてなんでもないのです。
『Grimm and Charles』
ナカタシュウヘイ
(『不思議の国のアリス』『赤ずきんちゃん』)
見るからに歪んだ月が夜空に浮かんでいたとしても、それは物質として歪んでいるのではなく、ただ視界が定まらないために、月は歪んでいる。こうして最後に二人で並んで月を眺めていたはずが、とあるバグのせいで、わたしとあなたの風景はこうも簡単に崩れてしまっている。