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『名刺の彼』水叉直

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 扉が開く音を合図として、女子会同然だった店内はお客様を迎えるための美容室へと姿を変える。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
 来店された方に対する丁寧な挨拶。彼に出会った最初の日、私の一日はそうして始まった。

 この美容室で働き始めてから三年が経った頃、ようやく一人の美容師としてお客様に接することができるようになっていた。
 今日は何人のお客様と話すことができるだろう、どんな方の髪を切ることができるだろう。
 多くの職業における三年目というと、仕事に慣れてきてひと段落といったイメージがあるが、美容師である私の三年目はがむしゃらなやる気と、心の奥底から覗く不安によって支えられていた。
 とはいえ新人美容師の私を指名してくれるお客さんは少なく、担当するお客様が一日いない日などは、先輩方のサポートに回る。
 お客様が来られた時の対応から、お荷物のお預かり。他にも席へのご案内やヒアリング後のシャンプーなど、席が七つしかない小さな店内とはいえ、お客様が重なるとそれなりに手いっぱいになる。 
 今日も午前中は変わらずサポートに徹するのだけれど、午後からは少し違う。私が担当するお客様が午後二時に来店されるのだ。
 指名してもらったわけでは無いけれど、他に誰も手が空いていなかったので自動的に私が担当することになった。
 その人についてわかっていることは予約表に書かれた森川という名前だけ、ほとんど情報の無い中、勝手に想像を膨らませてると、あっという間にその時は来た。

「こんにちはー」
 長い針が十二、短い針が二を差そうとしている頃、開いた扉の奥から現れたのはシンプルな服装をした、自分と同じくらいの年齢であろう男性だった。
「こんにちは、いらっしゃいませ」
「予約していた森川です」
 この方が森川さん、私の想像とは全く異なる容姿をした森川さんは、まさに切り時といった髪を頭に携えている。
「森川様お待ちしておりました、お荷物をお預かりいたしますね」
 そのまま席に案内し、大きな鏡を前にして座る森川さんに改めて挨拶をした。
「はじめまして、本日担当させていただきます岩瀬奈緒です」
 座席に腰かける彼よりも更に低い位置から手渡した名刺には、名前の他、仕事用のSNSへと繋がるアドレスが記載されている。
「森川健です、よろしくお願いします」
「えっ?」
 思わず声が漏れる。私の手元からは名刺が無くなり、代わりに目の前には別の名刺が差し出されていた。
 彼もすぐに気が付いたのか、慌てて言葉を付け加える。
「あっ、すみません間違えました。つい癖で」
 彼はそう言うと、差し出した手を引き込もうとした。咄嗟に私も言葉を挟む。
「待ってください、せっかくなので受け取らせてください」

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