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『魔法のステッキなんかなくたって』小山ラム子

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 カットを終えて、鏡越しにわたしを見つめた叔母さん。あのときの表情は今でもずっと覚えている。
「ショートも素敵だったけど、でも長さとしてならこの位も似合うと思います」
 いつの間にかさっき言ったのとほとんど同じ言葉が口をついてでた。
「もう少し伸びてミディアムヘアでゆるくパーマをかけても素敵だし、髪色明るくしたら雰囲気も変わるし、色々試してみてくれたらうれしいです。あと今は前髪流してますが、伸ばしてもっとおでこだしてもかっこいい感じになると思うし、あの、それだけでも何かしら気分が変わるかもしれないので」
 腕はそこそこ良くなっている、と思う。だけど理由はずっと変わっていないのだろう。わたしが美容師になった理由。
「そうですね。いつも同じ髪型で代り映えしなかったけど、これだけでもう別人になった気分です。なんか買っちゃいそう。かわいい柄のシュシュとか。あ、やだ。また増えちゃう」 
 そう言って鏡越しに真田さんがもう一度笑った。
 真田さんがどんな悩みを抱えているかは分からない。そこに触れていいのかさえも。わたしにできるのは髪を切って整えることだ。だけどそれが真田さんの笑顔につながってくれるのなら。ちょっとでも気持ちが前に向いてくれるのなら。
「じゃあお会計お願いします」
「あ、はい!」
 真田さんはすでにバックに手を伸ばしていたのであわててレジに向かう。
 いつの間にか視界がにじんでいたのに気が付いた。
 真田さんのさっきの笑顔。あれこそがわたしが美容師になった理由だ。
 叔母さんに憧れていたから美容師になった、と思っていた。でも美容師だったことも含めてわたしは叔母さんに憧れていたんだ。
 魔法のステッキなんてつかわなくても誰かを変身させることはできるんだって教えてくれた叔母さんにずっと憧れていて。
 わたしもそうなりたいと強く思っていた。
「なんか本当すみません。勝手に色々しゃべって」
 照れたように言う真田さんに、わたしはおおげさなくらい手を横に振った。
「いやいや! 本当全然大丈夫です! 真田さん来てくれてうれしかったです!」
「また来ます。次はカラーとかしようかな」
「いいですね! またお待ちしています」
「はい。ありがとうございました」
「こちらこそ!」
 真田さんを見送ってから休憩室にはいって一息つく。
 叔母さんだったらもう少し踏み込んで聞いていただろうか。わたしは叔母さんがお客さんと何を話しているかなんて気にしたことはなかった。覚えているのはお客さんのすっきりとした髪型と表情だけだ。
 叔母さんだったら、と考えてしまうことはよくあるし、他にも色々な人と自分とを比べてしまう。あの人だったらどうするか、とか別の人生を選んでいたらわたしはどうなっていたのだろうか、とか。
 でも、と思う。真田さんはあんなにもうれしそうだったではないか。
 背伸びをしてから時計を見る。これからまた予約が入っているし、のんびりしてはいられない。
 よし、と気合を入れて休憩室の扉を押した。

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