仙台に出張したついでに、美幸はふらりと実家に立ち寄った。
殺風景な駅のホームに降りたとたん、冷たい風が激しく吹きすさんだ。わずか数カ月の間に、ぐっと荒んでしまったような気がする。
生まれ育ったこの町も、母も。
兄も上京して、両親のみで暮らす家は、十分すぎるほど広い。各部屋に飾られたトロフィーや賞状がやたらまぶしく、かえって物侘しさを浮きあがらせている。
「美幸が帰ってきてくれて、作り甲斐があるわ。普段無口な父さんと二人だけだから、簡単に済ませることが多くなっちゃって……」
「そっか」
「さあ、はりきって作るわよ」
料理上手な母がエプロンをはおって、にこにこ台所に立つ。
予めリクエストしていた通り、今夜はトンカツとはっと汁だ。
キャベツを切り刻む包丁の音が、トントン小気味いい。目を見張るほどのスピードで、とてもまねできそうにない。
「これでいいわね。千切り、おわりっ」
みずみずしい淡緑色の山が、白い器を美しく彩った。
「わあ、きれーい。糸のように細くて、上手だなあ」
「なんてたって、主婦ひと筋三十年ですもの」
母がケラケラ笑う。ちらりと手元を見やれば、小皺が刻まれて、ガサガサだ。顔のシミも目立ち、くせの強いボブヘアに白髪がちらほら交じっている。
(ああ、母も老けたな)
厚切りの豚ロースに衣をつけながら、しみじみ思う。
おしゃれ好きだったかつての面影は、かなり薄れてしまっている。
長い髪を一つに束ね、うす桃色のスーツに身を包んで授業参観に来てくれた若い母の姿をぼんやり思い出して、はたとひらめいた。
(上京したてのころ、よく小包に添えてくれたように、美容室代を渡そうっ)
だけど、直接渡すのはちょっとこそばゆいし、遠慮して受け取ってくれないかもしれない。
(どこかにこっそり置いて、サプライズしよっかな)
さっそくお菓子の包装紙を折って諭吉さまをつつむと、「美容室代」と書き込んだ。へそくりの隠し場所を見つけるかのようにあれこれ探し回ったあと、食器棚の引き出しにそっと忍ばせた。
(喜んでくれたらいいな)
胸はわくわく弾んだ。
母も小包を送るとき、同じ気持ちだったのだろうか。
「くれぐれも体に気をつけて、お仕事がんばるのよ」
「うん、お母さんもあったかくしてね」