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『垢を脱ぐ夜』一二三季子

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 新宿駅東口改札をでて階段をあがり、時計を確認する。予約時間を少し過ぎてしまっていた。歩きづらい浴衣で 小走りをする。目的のビルに入りエレベーターのボタン を押した。
 今日は人生ではじめて、好きな人と花火大会に行くことになっていた。同じ大学で一つ上の先輩であるタツさんに「花火大会一緒に行かない?」と言われ、浮かれて その週末には浴衣を買ってしまった。浴衣をわざわざ買 ったのがばれたくなくて、簪を買ったとだけ伝えた。そ れだけなのにタツさんは、すごく楽しみと言ってくれた。浴衣の着付けは自分でして、ヘアセットを行きつけの
美容室で予約していた。18時の予約だったのに、予約時間をすぎてしまったのは、着付けに思った以上に手間取ってしまったからだ。前日までに何度か練習して上手く着られるようになったのに、当日着てみたら時間に追われてなかなか上手くできなかった。浴衣の格好で額に汗をにじませ、セットされてないボサボサ髪に手櫛を通してエレベーターに乗った。
エレベーターの扉が開くと、すぐに受付の女性と目が合い、笑顔を向けられた。
「いらっしゃいませ」
 店に入るとシャンプーなのか、パーマ剤なのか、美容室特有の匂いがふわっと香り、見えないゲートをくぐる感覚があった。
「遅れてすいません」
 私はペコペコ謝りながら案内された席に座った。席には私が好きそうな雑誌が並べられていた。席に座って間もなく、いつも担当してくれている宮越さんが明るく声をかけてくれた。
「こんばんは!浴衣素敵ー!」
「えへへ、この前買ったんです」
「いいねー!神宮の花火大会だよね?何時に待ち合わせ?」
「実は19時なんです、すいません」
 時計はすでに18時を回っており、申し訳なくて声が小さくなってしまった。
「オッケー!間に合わせるから大丈夫」
 鏡ごしに映る宮越さんは明るく、なんともないことのように言った。プロの表情だった。
「髪飾りとかつけたいものある?」
 私は浴衣に合わせて買った簪をとりだした。
「あらーいいのえらんだじゃない!」
 宮越さんは私から簪をうけとるとさっそくヘアセットをはじめた。
「場所とってくれてるの?」
「そうみたいです!たぶんずいぶん前から場所とりしてくれてるみたいで」
 私は緊張と楽しみでソワソワしていたが、宮越さんは嬉しそうに笑った。
「優しい人だね。途中雨降ったから頑張ってたと思うよ!今はやんだみたいだからよかったね」
少し前にタツさんから「やばい、雨ふってきた!笑」
「雨やんだ、よかった」というメッセージが連続できていたのを思い出し、またドキドキした。
 私が悶々としている間にも、ヘアセットは終盤になっているようだった。鏡にうつる自分をチラ見したら、いつもの自分ではないみたいに垢抜けていた。顔がニヤけてしまうのをこらえた。宮越さんはカットも少し加えてセットした。切られて落ちていく髪は私の全体を覆って いた「モサッと感」と共に剥がれおちていくようだった。
「いいんじゃなーい?かわいい!」

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