「日曜日に表参道行こうよ!みんな行くでしょ?」
清原春香は身を乗り出し、手元の画面を器用にフリックさせると『春の表参道特集』の見出しが躍る記事を突きつけた。
一瞬みんなの視線が春香の元へ集まったが、すぐに各々の手作業へと戻っていった。
へー、とか、いいよ、とか、反応はいまひとつだけど、内心乗り気であるに違いない。
春香の中に、そんな確信めいた予感があった。
高校に進学してから1か月。周りの雰囲気が薄く色付きはじめたことに、春香は気付いていた。
例えば、幼馴染の浅沼佳代子。彼女は高校に進学してからというもの、リップを塗りたくって二倍の厚さに膨れた唇を周囲に見せびらかすようになった。魚のように丸く大きな目とスッと通った鼻筋を持つ佳代子に、その唇は妖艶さを授けているように見えた。
中学から仲良しグループに参戦した沙織は、早々にスカートを短く切ってセーターを桜色に変えた。その柔和な色合いは、色白な肌と細長い涼し気な目元を持つ沙織と絶妙に相まって、華やかな雰囲気を漂わせる。
同じクラスになって仲良くなった朱莉は、ゆるく巻いた髪の毛と栗色のセーターがよく似合う。その愛らしいルックスに加えて、最近板についたメイクが彼女の品の良さを際立させた。
春香達の学校には特筆すべき校則といったものが存在しない。制服も存在しないので、当然、各々お洒落を楽しむのは問題ない。高校デビューを飾る友人のキラキラたるや目の保養である。
でも、何かがおかしい。
春香は湧き上がる不気味な予感に抗えず、鏡の前に立った。
白いブラウスに首元には赤いリボンを携え、黒いセーターの上に紺色のジャケットを羽織る。足元は白い靴下で締めてしまえば、そこには真面目な高校生の姿が浮かび上がる。
その出で立ちは立場を示すには事足りるのに、3人の中に紛れ込もうとすれば途端に異質なように思われた。
女子高生というものは、ただ制服でいればなれるものではないらしい。
中学の頃より格段に増えたにも関わらず、そんなことを教えてくれる授業はどこにもなかった。早急に女子高生にならなければならない。春香は迷った挙句、姉に相談を求めた
「とりあえず表参道あたりに行ってみれば?」
前髪をひとつ結びにし、学生時代のジャージを着こなして毎夜コンビニへ通う姉からあまりにも不釣り合いなワードが飛び出した。そんな姉でも、かつては女子高生として存在した先輩なのである。肩書には妙な説得力があるもので、遅かれ早かれ自分も経験すべき場所であると判断したのだった。
日曜日は11時に原宿駅で待ち合わせになった。
10分前に到着した春香は、その人の多さに呆然とした。レインボーどころではない、多様な色を放つ服や髪の毛が細い路地に密集し、一種のブラックホールのような渦を形成している。
これを大都会と呼ぶのだとしたら、自分という存在はその渦の一端になれるのだろうか。
視界に広がるブラックホールのようなそれは、早くも春香の胸中に同じ形状の渦を作りはじめていた。
「お待たせ」