「実は・・・娘が・・・この2年間くらいずっと・・・ずっと学校に行ってなかったんです・・・昨日カットして頂いた帰りに塾に送って行きました。私はいつものように塾の終わる時間に・・・娘を車で迎えに行き・・・そしたら・・・」
涙ながらに言葉を詰まらせながらもお母さんは続けて「娘が車に乗った途端、私に笑顔で・・・」
「お母さん!!私、明日から学校に行く!!あっ!それと、高木さんにもありがとう!って言っといてね!」
彼女は笑顔でお母さんにハッキリと言ったそうだ。
「本当に・・・本当に・・・高木さん、ありがとう・・・」
お母さんの涙声は、電話を切るまでずっと収まらなかった。
わずか15分程度の電話での会話だったが、何故彼女が昨日ご来店された時に暗い表情だったのかを全て理解した。
お母さんの話によると、学校でイジメにあった彼女は2年間も登校拒否となった。しかし、勉強の事もあり、塾には通っていた。
元気で活発な彼女が、人が変わってしまったかのように引き篭もった生活へと変化してしまった事に、お母さんは見守る事しか出来なかった。
そんな生活が続いたある日、彼女のボサボサで伸び切った髪を見兼ねてサロンの予約をしてくれたそうです。
そして僕が可愛いショートヘアにカットした後に、いつものように車で塾に送って行きました。
その日、塾の友達たちに
「すっごい可愛いね!!」
「びっくりした!!誰か分からなかった!!」
「短い方がいいよ!!」
「私もそんな感じにしようかな!!」
と、みんなに囲まれて、みんなが彼女を褒めてくれたそうです。
塾の友達たちに褒められて、彼女は自分の存在に気づき、そして嬉しさが込み上げて、ずっと閉じ込められていた殻を自ら破り、自信を取り戻したのです。
塾へ車で迎えに行ったお母さんは、彼女の豹変ぶりに一瞬驚きを隠せなかったそうですが、車に乗った彼女は、ずっと元気な笑顔で話し続けたそうです。自宅に帰ってからも食卓でもずっと・・・。
「あんなにみんなが褒めてくれるなんて思わなかった!!やっぱり私はショートヘアの方がいいんだね!!みんな集まって色々言ってくれたんだよ!!」
彼女はお母さんに自慢げに話したそうです。
翌日の朝・・・
「いってきま〜す!!」
2年振りに元気に学校へ登校。
お母さんは彼女を見送り、そしてサロンのオープン時間の10時を待ち、僕宛に電話をくれました。
ハサミを通じて、美容を通じて、本当にお客さまの人生に関わっているんだと深く実感する出来事でした。お客さま1人1人の背景には、様々なライフスタイルがあり、そのライフスタイルをより良くするのも、僕たち美容師の提案するヘアデザインで、1人1人の人生さえ大きく変えてしまう責任があります。
小さな女の子の人生を幸せに導くことが出来たカット。そんな小さな女の子も今は19歳。今もずっと僕の大切なお客さまの1人です。