「色抜けてきたらわりとすぐ染め直しちゃう人多いですから。ファッションに昇華してるのは普通にすごいと思います」
お世辞かなぁと思いながらも、髪型にこだわりを持っている身としては、悪い気はしない。
同時に、やはりお気に入りの髪色が楽しめるうちは染め直さなくてもいいや、とすがすがしい気持ちになった。
「ってことで、じゃあ今日は・・・このまま帰っちゃいますか?」
山崎さんに聞かれ、真里は白い布をまとって鏡の前に座っている自分の状況を思い出す。
「あっ、すみません・・・毛先と、前髪だけ整えてもらってもいいですか?」
「わかりました。せっかくなんでシャンプーもしましょうか」
本当は、相談に乗ってもらっただけでも代金を払いたい気分だったが、それは受け取ってもらえなさそうなので、少しカットしてもらうことにした。
シャンプーを終えて戻ってくると、鏡の脇のテーブルに温かい緑茶のコップが置かれていた。いつも緑茶をリクエストする真里の好みを、山崎さんが覚えてくれているのだろう。
真里が緑茶を飲んで一息ついていると、山崎さんが雑誌を持って歩いてきた。
「すみません、お待たせしました。畑中さんは、こっちがいいかと思って」
言って、テーブルに元々置かれていた雑誌と交換する。
「わっ、すみません、お気遣いいただいて・・・!」
真里は目を輝かせてコップを置き、雑誌を手に取る。
その雑誌には、松林風太のインタビューが掲載されていた。
さっそくお目当てのページを開く真里に、山崎さんが頭皮のマッサージを施しながら話しかける。
「彼、洗剤のCMやってますよね?ちょうど切らしてたんで、僕も買っちゃいました」
「ふおお、ほんとですか!うれしい、ありがとうございます!」
感激する真里に、山崎さんが驚いた顔をする。
「えっ、お礼を言われるようなことじゃ」
「いやいや、売り上げが風太くんの次の仕事に繋がる可能性もあるので」
「なるほど・・・。ファンの鑑じゃないですか」
手元を見つつ微笑む山崎さんに、真里も鏡の中で笑い返す。
慢性的な肩こりに悩む真里のために、山崎さんは肩を念入りにマッサージしてくれた。
髪型へのこだわりや髪質はもちろん、身体の調子や飲み物の好み、ひいては趣味まで把握してくれている山崎さん。
そして今日は、悩み相談にも乗ってもらい、真里の中の答えを見つけるのを手伝ってくれた。
そんな山崎さんは、もはや真里にとって、美容師以上の存在と言っても過言ではない。
しかも、このホスピタリティを多くのお客さんに発揮しているなんて。
ドライヤーの風を受けながら、真里は感服するのだった。