「ここに久しぶりにこれて良かった。運命だったのかも。」
するとジュンさんが垂れ⽬をクシャッとさせながら⾔った。
「確かにそうかもね。」
⽬配せした先には、シャンプーを終えた男がゆっくり姿勢を戻してきている。
鏡越しに⽬があった。僕が VOGUE に通うキッカケをくれたオシャレ番⻑タカシ君だ。
するとドアが開き、⼩さい⼥の⼦を連れた親⼦が⼊ってきた。
⼥の⼦のカットに来たらしい。おとなしくて笑顔が可愛いらしい⼦だ。
「私のこと覚えてる?」
⺟親らしき⼥性が僕に向かって⾔った。
突然、胸がドンと鳴った。
ジュンさんにいつも相談をしていたマイちゃんだ。
⾃然に振る舞おうと慌ててハーブティーに⼝をつけると、あの頃いつもおかわりしていた謎の紅茶はローズヒップティーだったことに気付いた。
お店を出る前、
「たまには帰っておいでよ」
そう⾔ってジュンさんは店を出る僕に会員カードを渡した。お店と同じ綺麗なアイボリーの新しいカード。
「こっちでも良いですか」
僕はくしゃっと折り⽬がついた紙のカードを財布から出した。
紙のカードには10年ぶりに店名が彫られた⼩さいハンコ。そして今⽇の⽇付が記された。
この店は10年ずっと変わらない。今もぼくのBARなのだ。