新幹線に3時間、そこからローカル線を1時間乗り継いだ。 都内より駅のホームも、電⾞も、全てがコンパクトに⾒える。駅を降りると気のせいか空気が少しだけ美味しく感じた。
そうそうこれだよ。
店舗よりもデカい駐⾞場のコンビニがあって。何もないのにトラックだけ沢⼭⾛る業務⽤みたいな道路があって。
⽥舎って訳じゃないけど、都会でもない。これが僕の地元。
帰ってくるのは成⼈式以来。
めっちゃ仕事して、寝て起きてを何年か繰り返すうちに
「東京のことは何でも知ってます。」
みたいな顔して、すっかり帰るタイミングを失っていた。
ここからタクシーなら実家までそう遠くない。久しぶりに降り⽴つ最寄り駅に、少しだけ触発され歩いて帰ることにした。
「おぉ、懐かしぃ」
そんな⾔葉が⼝から溢れることを期待して、
⼀台だけタクシーが⽌まる駅前のロータリーを横切り、歩き始めた。通っていた中学は外壁が綺麗に塗り直され、中も改装したのだろう。通っていた頃よりずっと綺麗で、知らない別の学校のようだった。
帰り道よく⾏ったバッティングセンターの姿は消え、野菜の無⼈販売店になっていた。
別に期待はしてないけど、思ってたノスタルジーみたいなモノには全く浸れなかったな…
そんなことを思いながら、すれ違う⼈のいないガラガラの歩道を東京仕込みの早歩きでズンズンと歩く。
はっと思わず⾜を⽌めてしまった。
VOGUE(ヴォーグ)だ。
途端に懐かしさが込み上げる。
サロンなんておしゃれな⾔い⽅は知らなかった僕が初めて⾏った美容室。中学のとき、ゲーセンのメダルゲームが恋⼈だった先輩のタカシ君がオシャレ番⻑へと輝かしい変貌を遂げ、新店 VOGUE はその名を僕らに轟かせたのだ。
当時ぼくが通っていたのは近所の古いジャンプとゴルゴ 13 の⽂庫本が読める床屋。
そこからタカシ君に続けと、未知なる VOGUE に⾜を踏み⼊れた 14 歳の緊張が、記憶と共に蘇ってきた。
クリーム⾊に⽊⽬が透けた外壁は海外ドラマで⾒る家のようで、⼤きなガラスのドアからは、シャンプーされている⼥性が⾒えた。
⾃分みたいなガキんちょがこんなオシャレな所に⾏ってもいいのかと、
⼀度そのまま店を通り過ぎ、気付くと近くのコンビニに⼊っていた。
「なにしてんだ…」