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『ジャングル美容室』広都悠里

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「そんなに深刻にならなくても気に入らなければ染め直せばいいし、髪なんてすぐ伸びるんですからやりたいようにやっちゃいましょう」
 やりたいように? 言われなくてもさんざんやってきました。この目に痛いようなオレンジ色の頭を見たらわかるじゃないですか。言いかけて違う、と思い直す。
 オレンジ色にしたくて染めたんじゃない、目立ちたいから、ただそれだけで選んだ色だ。
「世の中思い通りに行かないことって多いでしょう? 髪形や髪色ぐらい好きにすればいいと思うんですよね。失敗したってやりなおせるし。ノープロブレムです」
 にこりと笑うと短髪で、奥二重の目と整えられた眉で作られた生真面目な印象が一気に崩れ、鏡の中の私の顔もつられるように緩んだ。
 そうだね。生きていれば髪は伸びる。髪色だって変えられる。失敗したってやり直せる。思い通りに好きにすればいい。
「じゃあ、この色」
 差し出された色見本から選んだのはこげ茶のようにも黒のようにも見える深い赤色。赤色といってもそれほど目立つ色じゃない。ノープロブレム。
 すっかり任せる気になって店内を見回す。 
「緑がいっぱいですね。植物がお好きなんですか」
「手入れが簡単で丈夫なものばかりですよ。開店祝いに観葉植物を貰ったんです。店の入り口に置いてある、あの木です。一つ置くと、他にも欲しくなってしまって、少しずつ増やしているうちにこんなふうになってしまいました」
「そのうちジャングルになっちゃうかも」
「ああ、理想ですね」
「ジャングルが理想?」
「いけませんか? ジャングル美容室」
 ジャングル美容室? どんな美容室だ。
「マイナスイオンたっぷりで髪も心も癒されそう」
「そうなれるよう目指します」
 ショートにするならある程度の長さまで切ってから染めましょうか。その後、また切りますね、言うそばからオレンジ色の髪がしゃきしゃきと床に散らばっていく。
「葉っぱって、色々な形があるんですね」
「でも、奇抜な形をしていても自分では奇抜だとは思っていないんでしょうね。あたりまえの顔をしてどんどん大きくなっていく」
 頭の周りを鋏がちゃきちゃき踊る。
「まあ、植物だから」
「僕らもただの人間ですけどね」
 それぞれの形で堂々とのびてゆく植物たちにはためらいも、違った形になりたいと思うこともないのだろう。なんだか少し羨ましい。
「極論ですが、世界中の人がみんなそれぞれ植物を育てたら人と同じ数の緑が育つでしょう? 二つ育てたら世界は人間の二倍の緑で溢れます。それだけで世の中が少しうまくいくんじゃないかって気がするんですよ」
 ドライヤーで髪を乾かし、整えながらそんなことを言う。
「植物で世界を変えるってこと?」
「緑が増えれば酸素が増えるから」
 酸素! それが理由? 笑いそうになったが本人は真顔だった。
「ありがとうございました」
 店を出てもう一度、看板を見た。おしゃれな筆記体で書かれた文字をなぞるように読む。
「SAWADA……サワダ? なんだ、苗字じゃん!」
 あの美容師さんはサワダさんか。
「ありがとう、サワダさん」
 笑いがこみあげる。世の中は謎だらけだ。美容室へ行ってなぜ観葉植物を渡される? 
 水に挿しておいただけでも育ちますからと渡された、つやつや光る葉を握りしめ「サワダ美容室の緑化運動計画にまんまとはめられたぜ」とつぶやきながら歩く私は、切った髪の毛の分、軽い。

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