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『隣の矢吹さん』真銅ひろし

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「よし、分かった。短髪にしよう!」
「え、短くするの?」
「そう、で、横を刈り上げて、パーマを当てて、前髪は立たせる感じで・・・。」
「ちょ、ちょっと待って。変わりすぎじゃない?」
 今の髪型から大きく変わりすぎてかなり戸惑った。
「でも、似合うと思うよ。」
「でもパーマは禁止されてるし。」
「じゃあパーマなし。短くして横を刈り上げ。決まりじゃない!?」
「・・・。」
 強引に押し切られる感じで決まってしまった。かなり抵抗があったが、好きな人と一緒に决めた事が何となく嬉しかった。

 いつもの美容室。
 特にこだわりがあるわけではなく、母からの紹介でずっとここに来ている。
「いつもの感じで良いのかな?」
 毎回カットしてくれる若めのお兄さん。毛先を遊ばせたかっこいい髪型をしている。
「いや、あの・・・。」
 いつもと違うことを言うのは緊張する。
「短くして・・・。」
「お、珍しいね、うん、短くして・・・。」
 そのあとの言葉をじっと待っているお兄さん。
「・・・横を刈り上げる感じで・・・で合ってますかね?」
「えっと、じゃあ、こんな感じかな?」
 お兄さんは雑誌を持ってきて参考になるページを見せてくれた。そこにはイメージ通りの髪型が載っていた。ただ、モデルの人は物凄いイケメンだけれど。
「これです・・・。」
「分かった。じゃあこんな感じで行くね。」
 急な髪型の変化に何やかんやと詮索されたらどうしようかと思ったけど、お兄さんは何も言わずに始めてくれた。
「・・・。」
 そしてただ黙々とカットしてくれる。いつもあんまり話さないが、今日に限っては少し気まずかった。
「・・・あの、やっぱり変ですかね?」
「ん?何が?」
「いや、その、髪型が?」
「そんな事ないと思うけど。似合うと思うよ。」
「そうですか・・・良かった。」
「誰かに勧められたの?」
「まぁ、一応。」
「いいじゃん。思い切りがあっていいよね。」
 その言葉に思わず笑みがこぼれてしまった。プロの人に誉められると嬉しい。
「その人、美容師を目指してるんですよ。」
「へぇ、いいねえ、友達?」
「・・・。」
 一瞬言葉に詰まった。なんと呼べばいいのか。
「あの、そんな、感じです。」
 完全にしどろもどろになってしまったが、お兄さんは特に突っ込んで来ることなくカットを続けてくれた。
「はい、出来ました。」
「・・・。」
 そして数十分後、短髪の自分が鏡に映っている。似合うのか似合わないのかよく分からず、それに自分じゃないような変な感覚を覚えた。
「ワックスはつける?」
「ワックス・・・。」
 整髪料は今までつけた事がない。
「えっと、それじゃあ、お願いします。なんか前髪は立たせたほうがいいって・・・。」
「参考の写真も立たせてたもんね。じゃあ、つけ方、教えようか?」
「あ、お願いします。」
「少しでいいから手に取って、伸ばして、髪の根元の方から立ち上がらせる感じで付けてくのね。」
 そう言って説明をしながら、ささっとセットし始めた。
「・・・。」
 セットが速すぎるのか、お兄さんの手際が良すぎて分かったようでよく分からなかった。自分でできる気が全くしない。
「何回かやれば慣れるよ。その友達も多分知ってるからさ、分かんなくなったら聞いてみてよ。」
 お兄さんはニコッと微笑む。そしてワックスをつけ、出来上がった髪型を見て驚く。初めて見る髪型だけに見慣れないのはしょうがないけれど、かなりあか抜けた感じになったと自分でも感じた。
「どうですか?」
「あ・・・いいと思います。」
「良かった。学校の人達驚くかもね。」
 多分確実にジロジロ見られるだろう。想像するだけで恥ずかしい。そして矢吹さんがなんて言ってくれるのか気になる。
「友達の反応今度教えてね。」
「あ、はい。」
 そう言ってお会計を済ませ、お店の外に出る。
 絶対そんな事ないのに、外にいる人が全員自分を見ているんじゃないかと思ってしまう。
「・・・。」
 髪型一つでこんなに心がソワソワするなんて思ってもみなかった。
 明日、これを見たらどんな顔するだろうか。「似合ってる」と言ってくれるだろうか?
「・・・。」
 何も言わなかったらどうしようか?
 いや、そんな事はないだろう。
 でも、言われたとおりにやるなんて、気持ち悪いと思われないだろうか?
 いや、あっちが似合うって言ったんだからそれはない。
 それよりもワックスのつけ方を教えて貰わないと。
 あ、それより、どのワックスを買えばいいか教えて貰わないと。
「・・・。」
 どんどんと思いが溢れる。
 今日は勉強に手が付かないかもしれない。
「よし。」
 今日はどのワックスがいいか、下調べをしておこう。自分から話題を振るなんて絶対に緊張してしまう。
 そして帰り道、何かのお店のガラス窓の自分の姿が映る。
「・・・。」
 見慣れない自分がいる。しかしちょっとカッコいいと思ってしまった。
 自分は何もしていないのに・・・。
 馬鹿みたいだけれど思わず笑みがこぼれる。

 ありがとうお兄さん。

 心の中でそう呟いた。

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