「おじいちゃんが亡くなると、おばあちゃんはダンス辞めちゃいました。でも、ずっと紫色に髪を染め続けてた……。それってなんでかなって」
成美がそういうと、あずさは何度か小さく頷いた。優しい表情ながらも、何もかもお見通しのようにも見えた。
「成美ちゃんさ、信代さんの髪の色で、小学校の頃とか、からかわれた?」
「……はい。運動会の応援に来てくれたときに、すっごく目立ってて。今ではおばあちゃんと言えば紫色の髪でしか思い出せないくらいですけど。幼い頃はやっぱりちょっと恥ずかしかったな」モジモジしながら成美が答えると、そうだよねえとあずさは少し笑ってうなずいてくれた。
「信代さんもね、それはちょっと気にしてたな。でもね、自分の髪型くらい、自分の好きなようにできないなんて、つまんないもんねって。いつもセットが終わった後にニコッと笑って言ってたんだよね」成美の両肩を軽くマッサージしながら、そのやりとりを懐かしんでいるかのようだった。
「自分の好きなように……」成美がそう繰り返すと、あずさは頷いてこう続けた。
「でも、先に亡くなられた光一さん、成美さんのおじいちゃんとの思い出もあったのかな。前回来られたときにね、この髪の色にしとかないと、光一さんに見つけてもらえないと困るからって言ってらして……。信代さん、もしかしたら何か感づいていたのかな」
あずさは優しい口調で、信代さんは私の憧れの人なのよと、成美に笑いかけながらマッサージ終わりました、と背中をポンと軽く叩いた。
「はぁー、さすがプロの技というか、さすがですねえ」
ホットカーラーを外し、あずさがサッと整えてくれただけなのに。成美は鏡に映っている自分の髪型が目新しく嬉しかった。不器用なこともあり、普段は寝癖を直すくらいしかできないのだ。あずさはにこっと笑って、「成美さん、髪色もっと明るくても似合うと思うよ。あ、でもバイト先でダメだったり、就職活動もこれからかな?」
そう言われて成美は毛先を少し触り、はにかみながらも小さな決意をした。
「私も、おばあちゃんみたいに負けていられないなって」
「うんうん」
「次回は、お客として色々相談したいので、予約してもいいですか?」
「本当に? うれしい!」
そうして、成美は二週間後にまた美容室ステージを訪れる予約をした。別れ際にあずさは成美を呼び止め「今日は来てくれてありがとう」と深々とお辞儀をした。成美も慌てて「こちらこそ、おばあちゃんのいろんなお話が聞けて、嬉しかったです」と頭を下げた。そうして顔を見合わせながら二人でクスクスと笑い合いあった。
美容室ステージの扉をでた成美は、大きく深呼吸して歩き出した。その足取りは軽やかで、どこかダンスのステップを踏んでいるように見えた。