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『ラヴ・カマタ』ヰ尺青十

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 僕は祖父の予言どおり哲学科に進み、猫料理に引かれたふりをしながら、由美ちゃんを目当てにやって来るのだ。
 店のメニュウは普通だけど、鍋物や饂飩などを注文すると、猫舌用に温度を下げてもらえるのが猫舌族に受けてる。
「湯豆腐、大猫でお願いします」
「あのう、猫の寄せ鍋はできますか?」
 客はこんなふうに頼む。
 初めは僕だけが符牒で使っていたのだが、そのうち他の客の知るところとなって、今ではみんなが真似をする。
 常連のヤンさんなんか〈猫味〉なんて言葉を勝手に発明しちゃって「キムチ・チゲね、猫味で頼みます」
塩分控えめ薄味でって意味だ。
 世に猫族は多くて店は繁盛してる。
 客の三割はアジア系の人たちで、ちゃんこが食べられない外国人力士も来る。
 今日は12月12日。
 おじいちゃんの命日なので献杯に来ました。
 言い訳しながら麒麟麦酒を呑み始めた僕は、ふと鍋焼き饂飩が食べたくなった。メメズから饂飩を連想したのだろうか。
「土鍋の予冷ってのは準備してないんだけどねえ」
 常温でも大丈夫だろうってことで井沼さんが引き受けた。
「そう言や、慧一君、おから好きだったよな」
「はあ」
「食べてみるかい」
「はあ」
「ま、由美が作ったやつだから怪しいけどな」
 否、美人の料理は美味いに決まってるのだ!
 透き通るように白い手を伸ばして、由美ちゃんが小皿で出してくれると、デートのときに楽しんだ感触がよみがえって、練り絹のように白い
 うへっ、黒い!
 黒湯みたいなおからだ。醤油を入れ過ぎてる。
 食べてみるとしょっぱい、しょっぱい。
 おじいちゃんと僕が好きだったのは由美ちゃんみたいに色白だったんだよ。
 なのに、これはちょっと、いや、すごく不味いです。
「美味しくないの?」
 箸を止めてたら由美ちゃんが心配顔に。
「いや、バッチリ、大丈夫、すっごく美味しい」
 大嘘ついて麦酒で流し込んでると、おじいちゃんのつぶやきが聞こえる
〈高粱飯は赤い、真っ赤なんだよ〉
 つられて思わず言っちゃった、
「由美のは黒い、真っ黒なんだよ」
「え?」
 由美ちゃん、なぜだか胸を押さえて。

 帰り道、僕は犬の糞をふんづけた。

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