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               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

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『からくり日和』井上豊萌

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 品川駅で、さっそく東京の洗礼を受けた。
 新幹線のチケットを改札機に入れると、ブザーが鳴った。ここでつまずくとは。ヘッドフォンを耳にかけ、気持ちを落ち着かせた。安いチケットだったのか、行先は23区内だがチケットを買いなおす必要があるらしい。
 三味線とアコーディオンの音色を聞きながら、在来線に乗り換えた。旋律にのる歌声は、あいかわらず哀しみを帯びている。その正体を見たくて耳を傾けると、心地よい胸のざわめきが残るばかりだ。
 やがて窓から見る景色は、背の高いビルからマンションや民家が立ち並ぶ下町へと色を変えた。
 東京の下町は、私の知っている大阪とさほど違いはなかった。平日の昼間、サラリーマンや子供づれやら、さまざまな属性を持つ人間が行き交うばかりだ。駅前の飲食街は、昨夜の喧騒をひきずったまま自堕落な空気を漂わせている。
 意外に落ち着くなと思った時だった。
 自転車のブレーキ音が聞こえ、視界が傾いた。気が付くとアスファルトに打ちつけられていた。
 …なんと、東京は怖いところだ。

 今日のライブは中目黒でやっている。彼は仕事終わりに行くという。だから私は早めに東京に出てきたのだ。彼の育った街に来てみたのだ。
 それがこんなことになるとは。

 笙(しょう)とは去年、再会した。大学の卒業式以来だから八年ぶりということになる。三味線とアコーディオンのユニットに惚れこんで、私はライブが行われている場所へ足繁く出かけた。大阪はもちろん、福岡、東京、四国、そして奈良。
 青山のライブで笙と再会した時、運命というほど劇的でもなく、ときめきというほどのざわめきもなく、もとから繋いでいた手の温もりに気づいたような、不思議な感覚だった。久しぶりやん、と声をかけると、そうだね、と彼は嬉しそうに笑った。
 また次のライブで、と言ったら高知で本当にまた会った。それからお互いの都合がつくライブで会う約束をし、いつのまにか同じ宿を予約し、それから同じ部屋を取るようになるにはさほど時間はかからなかった。遠距離恋愛とはまた違う、不思議な関係を一年続けていたことになる。
 そうして今年に入り、続けざまに彼はライブに来なかった。仕事が山場だという。まあ、こんな関係続かんもんなあとうっすら感じた。繋がっていた手が離れるのか、それとも強くなるのか。私たちはシーソーにのってしまったのだ。

「気は確かかい?」
 見上げると、黒ぶち眼鏡のおばあさんが私を覗き込んでいた。腰を支えながら、ゆっくり起き上がる。
「さ、まずは腹ごしらえだ」
 彼女は私の肩やら腕やらをはたきながら誘ってきた。なんか懐かしい人やな。はあ、とあいまいに頷くと、おばあさんは蕎麦屋へ私を連れていった。
 そこは笙が好きだったという蕎麦屋だった。ちょうどよかった。ここに来ようと思っていた。カウンターしかない狭い店には外国人らしき褐色の肌をした青年と、ふくよかな体型の中年男性が、背中を丸め無言で蕎麦をすすっている。なんか落ち着くやんと食券を買い店員に渡した。はいよ、と勢いのいいイントネーションに気持ちがしゃっきりする。おばあさんは店の一番奥の席に陣取っていた。
「どうだい、ここらへんはいいとこだろ」

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