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『父のざんげ』津古づっこ

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 予定日どおりだったにも関わらず、母のおむつケーキは未完成だった。
「作品名は、『オムツ・デ・サグラダ・ファミリア』よ」
 未完成分野の世界的権威を持ち出しながら、母はあくまでわざと未完成なのだという体で押し通すつもりらしい。
 病院で甥っ子に初対面した私と兄は、我さきに赤ちゃんを抱かせてもらおうとお互いを押しのけあった。ひよこは生まれて最初に見たものを親だと思うという話を聞いたことがあるけれど、人間の赤ちゃんだって、なるべく先に見た人間から順位づけしていくかもしれないではないか。甥っ子の中の重要人物度において、兄より劣るわけにはいかない。
 父は相変わらず、何を考えているのかよく分からない表情と態度でボンヤリ赤ちゃんを眺めていた。うれしいのだろうということは察せても、私にはやっぱり、父の感情の発露というものが掴みきれない。
 ヤマダ家の中では唯一の父の理解者である姉は、先ほどから立候補しつづけている私と兄を差し置いて、母の次に父に赤ちゃんを抱かせた。
 こわごわとした手つきで姉から孫を抱き受けた父は、赤ちゃんと目が合った瞬間、顔中にじわっと泣き出しそうな笑みを広げた。
「あっ、夏生兄ちゃん、お父さんがうれし泣き寸前だよ」
 私は兄を肘で小突き、決定的瞬間を捉えたことを低声で報告した。
 兄は目を細めてじっと父を観察すると、
「ええ、どこが?」
 と首を傾げた。私はわざとらしく嘆息して、
「ダメだなぁ、お父さんのこと全然分かってないんじゃん。今度は夏生兄ちゃんが、お父さんと一緒に観覧車に乗れば?」
 と横目で兄を見た。兄は何かを思い出したように、はっと両目を見開く。
「そういえば千秋、こないだ父さんと観覧車乗って、どんな話したの?」
「どんなって、他愛もない話しかしてないよ」
「父さん、千秋とあんなに腹を割って話したのは初めてだって喜んでたよ」
「うそ」
「ほんと。おれにも、今度一緒に乗らないかって声掛けてきたもん。キャッチボールかなんかと勘違いしてるんだよ、観覧車を。勘弁してくれよ」
 兄が心底辟易しているのを見て、私は吹き出してしまった。一緒に観覧車に乗ることで我が子と腹を割って話せるだなんて、父の考えることはやっぱりよく分からない。分からないけれど、それが父流のコミュニケーション方法だというのなら、娘としては多少気恥ずかしくとも付き合ってやるのはやぶさかではない。
 父の腕に抱かれていた甥っ子が、うわーんと火のついたように泣き出した。
 父の抱き方が下手なんだろう。母がすぐさま父から赤ちゃんを取り上げる。
 父と母と姉に取り囲まれて元気に泣き叫ぶ甥っ子を見ながら、私は家族の一員がまた一人誕生したことの喜びをかみしめていた。
(これからこの祖父ちゃんに困惑させられることも多いだろうけど、どうやら不可解で空気を読まない言動の根底にはちゃんと愛情が流れているらしいから、大抵のことは大目に見てやってね)
 父の代わりに、先に心の中で甥っ子に謝っておく。

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