まだ見ぬ妹の存在が、日に日に大きくなっていくのを感じる。
父さんは「母さんは、うちに女の子が来るのが楽しみで仕方ないんだよ。」というけど、少しずつ世界が変わっていくようで、母さんの中の僕が、小さくなって消えてしまうんじゃないかと不安になってきた。
妹が生まれたら、僕はどうなるの?
僕のままでいられるの?
蒸し暑いコンコースから改札を出ると、一際大きな体をした俊弘伯父さんが手を振っていた。
僕たちは早足で駆け寄る。
「この度は、急なお願いをしてしまい申し訳ありません。」
父さんは深々と頭を下げる。
俊弘伯父さんは母さんのお兄さんだ。僕はトシ伯父さんと呼んでいる。
口数は少ないけど、体が大きくて何もかも豪快。そんな伯父さんだ。
「いやいや、楽しみにしてたんだよ。おお、祐!元気だったか?」
春休みの時以来だ。トシ伯父さんは僕を見るなり、わしゃわしゃと頭をかき混ぜた。
伯父さんの笑顔が、いつも通りなのを見て僕は少しほっとした。
急と言うのは本当で、昨日母さんが病院に着くなりダメもとで頼み込んだらしい。
夜には父さんが帰ってくるし、もう7歳になるんだから一人でも大丈夫だっと言ったけど、まだ小さすぎると却下された。
もうお兄ちゃんだねと言われたり、まだ小さいと言われたり、最近の僕は本当に忙しい。
伯父さんの返事はすんなりOK。小さい頃からよく遊びに行っていたし、伯父さんも伯母さんも優しくて大好きだ。
でも、子供の僕にだって急な話、迷惑じゃないかなとか一応考えることはできる。
それに泊まるのは初めてだった。
父さんと伯父さんが、母さんの様子を立ち話している間、僕はぐるりと辺りを見回した。
途切れることなく改札へ吸い込まれる人の波。コーヒーの香りを含んだ生ぬるい風。
だいたいここに来るときは車だったので、蒲田の駅は新鮮だった。
一通り話し終えると、父さんはペコペコと挨拶をしながらボストンバッグを伯父さんに手渡した。
「え、もう?」思わず声が出てしまった。