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『虹が瞳にかかるとき』福川永介

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 沙織は腕時計を一瞥してから言った。時刻はまもなく午後三時を迎えようとしている。
 沙織と幸子は、揖斐良平と待ち合わせをしていた。
 先日、沙織のSNSに揖斐からメッセージがあった。「七色いなり」「幸子」というワードで、揖斐が検索をしていたらしい。その時に、沙織のアップした写真と言葉が見事に引っ掛かったのだ。
 七色いなりは、幸子が調理師学校に通っていた時に、自身がつくったオリジナル料理だったという。講師からも評判が良かった。揖斐もその七色いなりが大好きだったらしい。
「そういえばおばあちゃん。揖斐さんにお世話になった、って言ってたけど、どういうことなの? 」
 幸子は目線を観覧車から沙織に移す。
「私は調理師学校時代ね、全然優秀な生徒じゃなかったの。だから、授業が終わってからもずっと勉強したり、練習してた。そんな時、学校でも一番優秀な揖斐さんがいつも付き合ってくれてたの。でも……若い頃って素直に感謝とかできないもんだろう。ましてや、異性には言いづらかった。不器用は損だねえ。ヤダヤダ」
 ありがとうって一言でも言えてたら……、祖母は眉尻を落とした。
「しかし、本当に来るのかしらね。正直、私はそんなインターネットなんて、あやし……い」
 祖母は途中で言葉をつまらせた。口を開けたまま、沙織の後ろに向けられた視線が固まっている。
 どうしたの? 沙織は振り向いた。
―はっ!
 そこには上品なハットをかぶった老紳士が立っていた。目尻の泣きボクロ。幸子を見て、口元をやわらかく結んでいる。
「お久しぶりです。幸子さん」
 ハットを取って一礼した。所作の細部に品の良さが滲んでいる。
「あ……、ああ……お久しぶりです」
 祖母はベンチから立ち上がって、首を小さく曲げた。
「揖斐良平です。覚えてらっしゃいますか?」
「忘れるわけないじゃないですか」
 見つめ合う二人の表情は夕暮れの水面だ。優しくきらめいている。
 沙織もベンチから腰を上げた。座ってくださいと促した。幸子と揖斐はゆっくりとベンチに腰を下ろした。
「どうして、調理師学校を急に辞めちゃったんですか?」
「父親の仕事の都合で、フランスに行くことになったんです。父親はフレンチのシェフで、その時本場のレストランで働くことになったのです。もちろん時々は帰国してましたが」
 なるほど、沙織は合点がいった。飲んべえから聞いた、ハットの老紳士はフランスから帰ってきているというのは、そういうことだったのか。
「そうでしたか。ずっとお礼を言いたかったんですよ。料理の練習に付き合ってもらってたのに」
「いやいや、大したことではありませんよ」

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