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『虹が瞳にかかるとき』福川永介

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 揖斐さん……、幸子は宝物をあつかうように名を呼んだ。そして、わずかな沈黙を飲み込むと、
「あのときは、ありがとうございました」
 深く頭を下げた。目は潤んでいた。かみしめる唇は、思いの深さを物語っていた。誰しもに、胸に秘めた“ありがとう”がある。
「とんでもありません。あなたの創作の意欲には舌を巻いていましたよ。私の方こそ勉強させていただいてました。ありがとうございます」
 時を越え重なる真実と胸懐(きょうかい)。沙織にも込み上げてくるものがあった。
「でも、まさかSNSがきっかけで再会するなんてね」沙織が若者らしい口調で言った。
 幸子の表情がやんわりと緩む。
「そうね。悪くないものね。何でもかんでも嫌悪しちゃだめだわ。長生きしてみるもんだ、うん」
 長生きは人生の答え合わせになる。風に揺れる前髪を押さえ祖母は言った。
「たっくさんアチコチ探し回ったのになー」沙織はすねたように唇をつきだす。
「でも、この街を知れて、良かったんじゃない?」
「うん」沙織は蒲田にあふれる魅力の数々を思い返していた。
「それに、雨が降るから虹が出るのよ」
 祖母のこじゃれた言い回しに、沙織は口元をゆるめた。
 祖母と揖斐はしばらくベンチで話していた。募る話に目を輝かせている。
 幸せの観覧車に乗ろうか、と揖斐は幸子に提案した。頬を染める祖母の顔は、少女のようだった。
「私、ちょっと本屋寄ってくるね」
 沙織は二人を交互に見た。小さく手をあげて、かまたえんを去った。特別、本屋に用があったわけではない。何となく、二人きりにしてあげたいと沙織は思った。
 屋上階の一つ下は七階だ。子供向けのゲームセンターを通り抜ける。その少し先で沙織は立ち止まった。
 フロア中央で展覧会の催事が開かれている。
絵の展覧だった。蒲田周辺の小学生達が書いた絵が、大きなパネルにたくさん飾ってある。テーマは《ありがとう》と題されてある。
 少し見てみるか、と思った。沙織は背中で手を組んで、ゆっくり見て回った。小学生らしい元気な絵の数々だ。思いのままを描いた無邪気さに、心が和む。
 ひとまわりして離れようとした時、沙織は一つの作品を見て立ち止まった。目を細め顔を近づける。
 女子高生が小学生の男の子に花柄の傘をさしている絵だ。
 背景に降る雨は、虹色のカラフルな雨だ。
 その女子高生はテニスのラケットバッグを背負っている。
 二人とも、真夏のひまわりのように満開の笑顔を咲かせている。
 香月沙織は作者名を見た。
―作者名 徳丸しんご―

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