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『虹が瞳にかかるとき』福川永介

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 祖母から話を聞くと、沙織は病室を後にした。「叶えようとすることが人生だと思う」そう言い残して。
 沙織は大股で歩きながら、蒲田中央通りへと向かった。

【4】
「若葉」という居酒屋に着いた。
 沙織は店の前で、小さな看板を見上げた。蒲田中央通りにあるこの居酒屋で、初めて揖斐良平と思われる人物に会ったのだ。
 もちろん、その老人が本人という確証はどこにもない。千に一つの望みだ。それでも、沙織はその豪雨の中の一滴を探しだすような小さな可能性に賭けようと思った。
 若葉の引き戸を開ける。中から歯切れのいい声が飛んできた。
「らっしゃーい」カウンターの奥にいる初老の店員だ。女子高生一人の来店に、少々面食らっていた。他の従業員や客も、沙織に目線を注いでいた。
 沙織はおかまいなくカウンターに向かい店主を呼び出し、事情を説明した。沙織が自分で書いた、揖斐の似顔絵の紙も見せた。
「ああ……こないだの大雨の日だよなあ」
 角刈りの店主が腕を組んで宙を眺めた。記憶の糸をたぐりよせているのだろう。
「確かに、そんなお客さんいたな。上品なハットをかぶった紳士なじいさんだよな。うん! いたいた。間違いないぜえ」
 角刈りの顔が晴れ渡った。しかし、すぐにくもった。
「だけど、初めて見る顔でよお。詳しいことは何にも分かんねえな」
「そうですかあ……」
 有力な情報は何もなかった。沙織は礼をいって、踵を返した。
 店の外に出ようとした、その時、
「おいっ、お嬢さん!」
 カウンターで飲んでいた客の一人が沙織を呼び止めた。酔いどれの中年男性で、若葉の常連客らしい。タヌキみたいに目が垂れている。
「あのじいさんよ、あのあと、西口の蒲田通りで飲み歩こうかな、って言ってたよ」
 西口の蒲田駅通り。東急蒲田駅の高架下に、飲み屋が密集している通りだ。一歩進めば飲み屋、一歩進めば飲み屋。この東口中央通りよりも店が林立している。
 似顔絵を一枚だけ店において、沙織はすぐさま蒲田駅西口へと向かった。
 蒲田通りに着くと、沙織は一軒ずつ訪ねた。道の果てまで両面に、ぎっしりと飲み屋が敷きつめられている。気が遠くなる思いがしたが、それよりも祖母の会いたい人を見つけたい覚悟が勝っていた。
 三十軒以上は店を回ったかもしれない。若い身体といえど、さすがに息を切らすような疲れが襲いかけていた。実際には、体力よりも、精神面で疲労を感じていた。たかが女子高生の頼みごとに、本気で耳を傾けてくれる人は決して多くはなかった。まして相手は商売の最中だ。

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