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『虹が瞳にかかるとき』福川永介

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「おばあちゃん……」沙織は祖母を見つめる。その目は潤んでいた。
「おや、沙織。来てくれたんだね」
 幸子は沙織に気づき、にっこり微笑んだ。
「学校はどうだい?
 部活もいいけど、勉強もしっかりやるんだよ。おばあちゃんみたいに頭空っぽになっちゃうからねえ。バカはやだやだ」
 幸子は手のひらを宙でパタパタ動かす。
 無理に明るく振る舞う祖母の姿に、沙織は込み上げてくるものがあった。
 しばらく談笑したあと、沙織は意を決した。祖母の、窪みの奥に光る目を見つめた。確かめたいことがあった。
「おばあちゃん、もう聞かされてると思うけど……その……手術受けるの?」
下咽頭がんの手術のことだ。受ければ声を失ってしまう。
 幸子は唇を結んで薄く笑った。
「そんな泣きそうな顔しないの。死ぬわけじゃないんだから。」
「だけど……」
「手術は受けるわよ。長生きしなきゃね。バカの唯一の取り柄なんだもの」
 冗談まじりにさらりと言ったが、祖母の決意は揺るぎないものだと感じた。そこには恐怖を乗り越えた覚悟が滲んでいた。
 ただ……、と幸子は顔を目を沈ませた。沙織は彼女の物憂げな顔を改めて見た。
「声がなくなる前に、揖斐さんにありがとうって伝えたかった。この声で」
 病室にしばしの沈黙が走った。
 揖斐さん―幸子の調理師学校時代の仲間だ。当時、幸子がお世話になっていたらしい。
 先日、夏の大雨の日。傘を持たぬ沙織は知らない老人に傘をもらった。その傘には『揖斐』と刻印されてあった。それを見て、幸子は「もしや、調理師学校時代の揖斐良平では」と推測した。年齢と、わずかな特徴が微妙に重なったらしい。
「でも、もう叶わぬ願い。人生は叶うことと叶わないことでバランスがとれてるのよね、きっと」
 幸子は窓の遠くに視線を移した。やわらかい夕日が街を包んでいる。
「みつける……」沙織がぼそりと言った。幸子は首の向きを沙織に向け直す。
「その揖斐さんって人、私が見つけてみせる!」
「何をバカなこと言ってるんだい沙織」
「ぜったい見つけるから。おばあちゃん、その人のこともっと詳しく教えて」
 幸子は呆気にとられた。それほど、沙織の勢いは激しかった。

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