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『虹が瞳にかかるとき』福川永介

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「わあー!今日は七色いなりじゃーん。マジ虹じゃん」沙織の瞳が虹色にきらめく。
「今日はテニスの試合だったんでしょ。このくらい労(ねぎら)わないとね」
 台所で幸子が答えた。みそ汁をあたためている匂いがつたってくる。
 七色いなりは幸子の一番の得意料理だ。
 枝豆(緑)、人参(オレンジ)、黒米(黒)、じゃこ(白)、粒コーン(黄色)、金ゴマ(金色)。そしてもちろん油揚げ(きつね色)で作られている。七色を放っているので、香月家では七色いなりと名づけてる。栄養バランスも文句なしだ。
「いただきまーす!」沙織は手を合わせた。
 口に運ぶ前に、写真を撮ろうと思った。SNSにアップするためだ。
 ポケットからスマートフォンを取りだし、七色いなりにフォーカスをあてる。
 すると、
「こら! 沙織。写真なんか撮ってないで食べなさい」
 リビングの扉から幸子が顔をのぞかせていた。眉間にしわが寄っている。
「最近の若い子ときたら、すぐに写真、写真ねえ」あきれ口調だ。幸子はスマートフォン文化に辟易(へきえき)していた。
「べっつにいいじゃん。いいね、たくさんもらえるって」
 沙織は口の端を曲げる。
「あんたがいいねと思えば、私はそれでけっこうよ。いいから、さっさとお食べ」熱々のみそ汁をテーブルに置く。
 はいはーい、沙織は祖母がリビングから出るのを確認すると、こっそりと写真を撮った。すぐにSNSに投稿した。『幸子おばあちゃんの虹色いなり』と打ちこんで。
 スマートフォンをポケットにしまい、大好物の七色いなりを頬張った。
「んんんん……まいうー!」沙織は目を線にして堪能した。みそ汁も体に染み渡っていき、芯から癒された。
 虹のような七色いなりを味わっていると、リビングの扉がガラリと空いた。幸子が立っていた。
「沙織……これ誰にもらったの?」
 真っ黒の傘を握っている。沙織が帰宅途中でもらった傘だ。水滴はすでに拭きとってある。さすが、幸子らしい仕事の速さだ。
「だからー、中央通りの居酒屋にいたおじいさんだってば。どうしたの?そんな険しい顔して」
「柄の部分に揖斐(いび)って彫ってある」
「へえ、それってイビって読むんだ」
「岐阜県の揖斐川って知ってる? その揖斐よ。」
「ふぅーん。変わった名前だね。エビみたい」
 能天気な沙織とは対照的に、なぜか幸子は神妙な顔つきをしていた。
 その理由を訊いて、沙織は目を大きくした。

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