乗ろう乗ろう、と祥子がはしゃぐ。私と恵美子は様変わりした屋上を、へぇーっと見回し、竜太は、できたばっかりの設備に興味津々だった。空中飛行見てるから観覧車おまえらで乗ってこいよ、と言い出し、もう慣れっこの私たちは、じゃあそうする、と三人で観覧車に乗り込んだ。
ピンク色と思っていたゴンドラは中から好きな色にタッチパネルで変化させることが出来、私たちは、スカイブルーの色にヒマワリの花柄を選んだ。足元からバッと色が代わり、座席や天井までヒマワリが咲き誇った。
すごーいと恵美子がはしゃぐ。祥子が指でゴンドラの内側をつんと触ると、祥子の顔のまわりだけ窓のように外が見えるように透明になった。祥子しか見えない窓から、竜太を見ているように見えた。
「なんかさ、すごいスピードで街が変わってるよね」
私が言うと、ほんとだねぇついていくの大変、と祥子が言う。
「でも変わってちゃんと餃子みたいに大事なのは残ってていい街だね蒲田」
「そうだね」
「大丈夫?祥子」
「うん、大丈夫。なんかさ、ここ数年、置いて行かれてる気がして」
なにに?と恵美子が言う。
「なにに?何にだろう?世界に?かな」
「スケールでかいわ」
ははっと恵美子が笑う。
「竜太の結婚相手がロボット、あ、AIって知ったときにさ、あ、終わったって思ったんだよね。人間は歳をとっていくのにAIはどんどん新しくさえなってさ、かわいくて、強くて、なんかもう人間じゃなくてよくない?みたいな」
「まぁねぇ。でも私は結構頼もしいなって思ってるんだよね」
恵美子が祥子に体を向けて座り直すと、少しゴンドラが揺れる。
「いくつになっても子供ができるかもしれないしさ、体が不自由になっても機械に乗ってもう普通にそのへんを動ける時代だしさ、なんなら私もAIと結婚でいいかなって」
マジで?と私が言うと、少し考えて、やっぱ人肌恋しくなるかな? と恵美子が言い直す。
「それにさ、大事なものは変わらないんじゃないの?」
そう言いながら恵美子が祥子をじっと見る。
「そうかな。ん、そっか」
「形が変わっても蒲田は蒲田っていう街なんだし、うちらはうちらなんだし、素直に悲しんで寂しくなって嬉しかったら喜んで、そうやって人間は生きていけばいいんじゃないのかな。あ、AIも同じか」
「案外AIもこれから悩む時期が来るかもしれないし」
私が言うと、ありえるね、と祥子が頷いた。
「次会うまでに良いことあるかもだし、また祥子の好きな観覧車乗りに来れるし」
祥子が、うんうん、と頷き、あ、という顔をした。