「あらぁ、結婚するの。そーう。おめでとう。さみしくなるねぇ」
私も立ち上がって様子を見ると、丸椅子にちょこんと座ったおばあちゃんが顔だけ竜太に向けていた。
「寂しくなんてならないよ。俺もこいつらも半年に1回は来るしさ、変わらないよ。だからさ、蒲田でさ、ここでずっと餃子作ってくれよな。世の中じゃ、羽根つき餃子って言ったらフライパンに並べてで焼いた丸いやつ想像してるけど、俺たちの中ではずっとこの長方形の羽いっぱいの餃子が一番だからさ」
「あらあら、嬉しいねぇ。じゃあもうちょっとがんばらないとねぇ」
無理はしないでね、と私が言うと、次来るときは楽に餃子作れるような機械考えてくるから、と竜太が得意気に言う。
「あらあら、嬉しいねぇ。あ、そうだ、観覧車が新しくなったの知ってるかしらねぇ、最新式になったのよぅ。きっとあなたたち気にいるわよぅ」
へぇーマジか、と祥子が言う。祥子は、高いところが好きなくせにスピードの出るものが苦手で、楽しく乗れるのが観覧車だった。
「昔々はねぇ、お城の観覧車って呼ばれててねぇ、みんなお姫様気分だったって聞いたことあるのよぅ。百貨店をデパートなんて言うようになってねぇ、ずいぶん洒落たところになってねぇ、そのあとはお花の観覧車って呼ばれて、私はよく乗ったのよぅ。お花みたいな餃子作ったりしておじいさんに叱られたりしてねぇ、ふふ。お友達と親子と、思い出すわねぇ」
行ってみたらいいわ、と言うおばあちゃんの横で、お勘定の話と勘違いしたのかロボットが伝票を側面から出した。竜太はそれを受け取って、じゃあ行ってみるか、と私たちに言う。今日は報告付きの俺のおごりってことで、と言って指紋認証で電子決済を済ませた。
透明なドアを過ぎて振り返ると、磨りガラスに変わって、おばあちゃんの姿が見えなくなってしまった。
無人タクシーが私たちを誘う様にピカピカと綺麗な色を発し、私たちはそれを無視してゆっくり歩く。東急ってまだ東急だよね、時代が変わっても壁が全部ガラスになって全部に広告が映る様になっても東急なんだね、と言い合った。近づくと、TOKYU PLAZAという文字が流れ星のようにビルの側面にびゅんびゅんと映る。銀色になったり金色になったり虹色になったり変化している。私が、あ、新しくなってると指を指すと、私の指先を察知したのか、ビルにWELCOME!と浮かび上がった。
入り口すぐのガラスの球体の乗り込むと一瞬で屋上に着いた。屋上かまたえん、は名前は変わらずに小さな遊園地が広がっていた。
子供用電車が走っていたところは空中高速飛行体験が出来る乗り物になっていて、グリーンの芝はくつろぐ人の体重に合わせてゼリーのように体を包みこむようになっている。小さな売店にはウサギとネコのAIが働いている。
観覧車は七色に輝き、ゴンドラが宙に浮いて見える。