「また祥子はそういうことばっかり言う。そういうとこだよ」
唾を吐くように言う竜太を、恵美子が、祥子の嫉妬にも気づかなかったんだね、と哀れな目で見つめている。
「だいたいロボットじゃなくてAIだって何回言ったら分かるんだよ、一人一人にちゃんと名前もあって、それは国も認めてることだろ?俺がMAIに惹かれて結婚するんだって何の違法性もない」
「違法がどうかっていう話じゃなくてさ…」
冷静に話しているけれど祥子が傷つきはじめているのが分かる。私は、楽しんでいた仕事がAIの担当になったこと、祥子の祖父がまだ試験走行の時期に誤作動を起こしたAIカーに轢かれてケガをしたことを知っている。
「勝てる気がしないのよ」
ぽつっと祥子が言うと、意味が分からない、と竜太が言い、恵美子は混乱を超えて、ほんっと竜太ってダメだね、と言って、最後の餃子のひとつを口に入れた。
「でもいいの、ごめんごめん、おめでとう竜太」
祥子が無理して言うのを、恵美子も私も黙って見ていた。
「最初からそう言やいいのに、相変わらず面倒くさいところあるよな祥子は、そんなんじゃ男なんて無理だぞー」
相変わらずなのはお前だ、と私が言うと、竜太って学生時代のほうがいい男だったと恵美子が言い、祥子がちょっと笑った。
「とりあえず、おめでとうって言ってくれてよかったわ。でさ、俺ら結婚式っていうのやらないつもりだから、せめてちゃんとお礼言おうと思って」
お礼? と祥子が竜太を見る。
「うん。ほら、大学の時からさ、落ち込んだときとか、社会人になって図に乗ってたときとか、変わらず定期的に会ってる友達ってこのメンバーなわけなんだよな。もちろん男友達だっていっぱいいるけど、やっぱりなんか俺にとって居心地いいんだ。祥子にももちろん幸せになってほしいと思ってるし。ありがとうって、今日はちゃんと伝えたくて」
「図に乗ってるって今もだよね」
ぼそっと恵美子が言い、祥子が頷く。は?せっかく俺が、と余計なことを言いそうな竜太を遮って、私は、そう思っててくれるなら十分だよ、おめでとう、と真面目に返した。恵美子と祥子も、ほほえんでおめでとう、と言った。
「ばーちゃん、そういうわけだから、俺結婚するんだ。みんなもおめでとうって言ってくれた」
竜太が立ち上がってカウンターのむこうに身を乗り出す。