「え?私が竜太を分かってる?そんなことあったっけ」
祥子が不満そうにテーブルのディスプレイでビールを追加する。
「あったあった。授業中は、どうせ今日レジュメ印刷忘れてきたんでしょとか、体内に埋め込むメモリを作りたいだけで就職決めたんでしょとか、会社の後輩の女子に誘われたけどデートの予行練習の付き合いだったんでしょとか、いろいろあっただろ」
「どれも正解だったんでしょ」
祥子が言うと、そうだけど、と竜太が目線を落とし、私たちは、えぇぇっ、と驚いて見せた。図星だったことにも、私たちの知らないところで祥子と竜太の仲が深まっている気がした。
「ねぇ、竜太結婚するんでしょ?」
真顔で祥子が念をさすように言うと、竜太が、する、と答える。
「じゃあ別にいいよね、みんなに言っても」
私と恵美子が、何が?と竜太を見る。竜太は何も言わないで、ロボット台の運んできたビールを取ってそのまま苦そうな顔をして飲んだ。それ祥子の、と恵美子が言いかけた。
「私たちさ、一瞬付き合ってたんだよね」
言って、祥子は頬杖をついて竜太を見た。
「なにが?」
恵美子が首を傾げる。私の頭の中で、付き合ってたんだよね、の考えを巡らした。一昨年か2年前か、2回、祥子と竜太がこの店に一緒に着いたことがあった。そのあとくらいからか祥子がAIに対して少し嫌悪感があるような言い方をしはじめた。それくらいからか竜太のメッセージの返事が遅れるようになった。それくらいからか祥子が引っ越したと言い、竜太が引っ越したと言い出した。もしかして二人ともこの街で一緒に過ごしていたのだろうか。
「え、マジで?ほんとに? え、でも竜太結婚するんだよね?」
恵美子が少し混乱したまま、どういうことどういうこと、と言うと、祥子が、そういうこと、と言ってため息をついた。
「竜太はロボットのがいいんだってさ。歳とらなくて、自分の気持ちも読み取ってくれて、好きな見た目に変えることができて、自分の仕事の最高の理解者だしね」
祥子がつまらなそうに言う。
「そういうことじゃないだろう、人間でもAIでも長く一緒にいられる相手ならいいだろって話」
「そうそう、そうだったね。じじいになってカラダに自由が効かなくなってもカワイイままのロボットに人間離れした力と技術で介護してもらえていいんだもんね」