祥子が真顔で言う。
「あーなんか相手が人間でも声かけそう」
私が言うと、竜太がムッとする。
「人間でもってなんだよ。別に受付嬢とかが好きなわけじゃねぇし、人間とかAIとかってそんな重要かよ。マジ時代遅れだってそういうの」
まぁまぁと恵美子がなだめる。
ロボット台が、おまちどうさまでしたーと言って餃子をテーブルに置いていく。和ませるために、来た来た餃子食べよっ、と私は小皿を並べる。
「あー、半年待ったこの餃子さいこーう」
極薄の羽つき餃子に箸で触れると、サクッと音がする。あらぁありがとうねぇーとカウンターからおばあちゃんの声が飛んでくる。
「やっぱさ、これは機械には無理だって」
私が言うと、祥子がおばあちゃんじゃないとここまで美味しくはならないよねーと餃子の汁の付いた唇を舐める。
「いやいやいやいや、できるんだよそれが」
竜太が言い、できるできないじゃなくて美味しいよねって話、と恵美子がまたフォローする。
「わかってるわかってるって。できるはできるんだけど、俺だってやっぱりばあちゃんにはずっとこの店続けてもらいたいなと思ってるよ」
だっておばあちゃん、と祥子が言うと、おばあちゃんは、あらまぁと嬉しそうにカウンターの向こうで背伸びして、ひょっこりと笑った。
「嬉しいわねぇ、みんなほんとうにしっかり大人になって。私が作れなくなってもねぇ、ロボットに作ってもらえるようにって向こうの商店街の人とは話してるんだけどねぇ」
おばあちゃんじゃなきゃだめだよ、と言いつつ、誰も餃子を作らないで店が潰れてもイヤだし、同じものを機械でも作れるのではないかと一瞬思っていた。
「商店街もねぇ、どんどん変わっちゃって、お店に人が立ってるのももう少ないでしょう?そうそう、竜太くん詳しいから入れられるロボットがあるなら教えてもらいたいのよぅ」
おばあちゃんが言うと、竜太は、少し声のトーンを落として、いいよ、と返した。
「じゃあ次来た時に、こういうのがいいわぁっていうのを決めておこうかねぇ」
おばあちゃんはそう言ってまたカウンターの向こうで座って顔がひょっこり隠れた。そこで座って、何をやっているんだろう、といつも思いながら、餃子を作っている時以外のおばあちゃんのことを何も知らないと気づいた。
「おばあちゃん、ロボットじゃなくてAIな」
竜太が顔の見えないおばあちゃんに言うも、返事はなく、代わりに祥子がはいはい、といい加減に返した。
「祥子、ほんと分かってないよなぁ、俺のことは分かったように昔から色々言うのに」